歯茎に、ニキビのような白いできものができたり、そこから膿が出たりすることがあります。

このような症状の一つに「フィステル(瘻孔)」があります。

フィステルは、歯の根の周囲などに生じた炎症によってたまった膿が、歯茎などへ排出される通り道として形成されることがあります。

痛みが少ないこともありますが、フィステルがあるからといって感染や炎症が治っているとは限りません。

この記事では、フィステルができる原因や放置するリスク、検査・治療法について、実際の症例を交えながら解説します。

フィステル(瘻孔)とは、体内に生じた炎症などによって、組織と組織の間や組織と体表の間に形成される通路のことです。

歯科では、歯の根の周囲に感染や炎症が生じた際、たまった膿が歯茎へ排出される通り道が形成されることがあります。

歯茎の表面には、

  • 白っぽいできもの
  • 赤いふくらみ
  • ニキビのような突起
  • 膿が出る小さな穴

などとして見えることがあります。

歯科では、このような膿の排出口を「サイナストラクト」と呼ぶこともあります。

フィステルから膿が排出されると内部の圧力が下がり、痛みや腫れが軽くなることがあります。

しかし、これは原因となっている感染や炎症が治ったことを意味するものではありません。

フィステルにはいくつかの原因があります。

歯科でよくみられるのが、歯の根の先に炎症が起こる「根尖性歯周炎」に伴うものです。

虫歯が進行して歯髄が感染・壊死した場合

虫歯が歯の内部まで進行すると、歯髄(歯の神経や血管を含む組織)に炎症や感染が生じることがあります。

さらに進行して歯髄が壊死すると、根管内の細菌感染が根の先へ広がり、根尖性歯周炎を起こすことがあります。

そこに膿がたまり、排出路が形成されると、歯茎にフィステルが現れることがあります。

根管治療をした歯が再感染した場合

過去に根管治療を受けた歯でも、根管内に細菌が残っていたり、新たに細菌が侵入したりすると、根の先に炎症が再発することがあります。

被せ物をしている歯にフィステルができた場合も、根の周囲に炎症がないか確認する必要があります。

歯根破折

歯の根にひびや破折があると、そこから細菌が侵入して周囲に炎症を起こし、フィステルが形成されることがあります。

歯根破折の状態によっては、歯を保存することが難しい場合があります。

歯周病などが原因となる場合

フィステルのように見える排膿部が、必ずしも根尖性歯周炎によるものとは限りません。

重度の歯周病や歯周膿瘍など、歯周組織の感染によって膿が排出される場合もあります。

そのため、見た目だけで原因を判断せず、検査によって感染源を確認することが重要です。

フィステルは痛みが少ないこともあり、そのまま放置してしまう方もいます。

しかし、原因となる感染や炎症が残っている場合には、自然に治るとは限りません。

歯を支える骨が失われることがある

根の先の炎症が長期間続くと、その周囲の顎の骨に吸収が生じることがあります。

病変の大きさや歯の状態によっては治療が複雑になり、歯を保存することが難しくなる場合もあります。

病変が大きくなることがある

根尖性歯周炎が長期間続くと、根の先の病変が大きくなることがあります。

病変の状態によっては、通常の根管治療だけでは改善せず、外科的な処置が検討されることもあります。

痛みや腫れが急に現れることがある

慢性的な炎症では、ほとんど痛みを感じない場合があります。

しかし、排膿する通路が閉じたり、感染が急性化したりすると、強い痛みや歯茎・顔の腫れなどが現れることがあります。

口臭や不快な味の原因になることがある

フィステルから膿が排出されると、口臭や口の中の不快な味につながることがあります。

「感染しているなら、なぜ痛くないの?」と疑問に思う方もいるでしょう。

フィステルが形成されると、炎症によって生じた膿が外へ排出されやすくなります。

そのため、内部の圧力が高まりにくくなり、痛みや腫れを感じにくいことがあります。

また、原因となる歯の神経がすでに壊死している場合には、歯そのものの痛みを感じにくいこともあります。

つまり、

「痛くない=問題がない」

とは限りません。

歯茎に白いできものや繰り返し膿が出る場所がある場合には、症状が軽くても歯科医院で原因を確認することが大切です。

フィステルが認められた場合には、どの歯や組織が原因になっているのかを調べます。

主に、

  • 口腔内診査
  • 歯の打診
  • 歯周ポケット検査
  • 歯髄の生活反応を調べる検査
  • デンタルX線検査

などを行います。

必要に応じて、フィステルの排出口から細い材料を挿入し、X線撮影によって感染源となっている歯を確認することもあります。

通常のX線写真だけでは病変の状態を十分に把握できない場合などには、歯科用CTによる詳しい検査が検討されることもあります。

今回の症例では、上顎右側側切歯(右上2番)の歯茎に、フィステルを疑う排膿部が認められました。

フィステルの症例
フィステルの症例

口腔内で確認された所見

  • 上顎右側側切歯にメタルボンドクラウンを装着
  • 歯肉退縮
  • 歯根の一部が露出
  • 根面に着色
  • 歯茎に赤い膨隆と白色の排膿部を認める

このような場合には、見た目だけで原因を決めることはできません。

根尖性歯周炎、過去に根管治療を受けた歯の再感染、歯根破折、歯周組織由来の感染などを鑑別する必要があります。

X線検査や歯周組織の検査などを行い、原因となっている歯や病変の範囲を確認したうえで治療方針を決定します。

フィステルそのものだけを処置するのではなく、原因となっている感染源を治療することが重要です。

原因や歯の状態によって治療法は異なります。

根管治療

歯髄の感染・壊死などによる根尖性歯周炎が原因の場合には、根管治療を行います。

根管内の感染した組織や細菌を可能な限り取り除き、洗浄・消毒したうえで根管を適切に充填し、再感染を防ぎます。

原因となる感染が改善すると、フィステルも徐々に消失することが期待できます。

再根管治療

過去に根管治療を受けた歯の根尖部に炎症が再発している場合には、再根管治療を検討します。

必要に応じて被せ物や土台、根管内の充填物を除去し、根管内を再度清掃・洗浄して感染源の除去を図ります。

ただし、被せ物や土台の状態、歯根の形態などによっては、再根管治療が難しい場合もあります。

歯根端切除術

通常の根管治療や再根管治療だけでは改善が難しい場合には、歯根端切除術が選択肢となることがあります。

歯茎を切開して病変部へアプローチし、炎症性組織と歯根の先端部分を外科的に除去します。

症例によっては、根の先から根管を封鎖する「逆根管充填」を行います。

逆根管充填には、MTAなどの材料が使用されることがあります。

抜歯

重度の歯根破折や著しい歯周組織の喪失など、歯を保存することが難しい場合には、抜歯を検討することがあります。

抜歯後に歯を補う必要がある場合には、

  • インプラント
  • ブリッジ
  • 部分入れ歯

などから、お口の状態や希望に合わせて治療法を検討します。

根尖部の炎症が長期間続くと、X線写真上で大きな透過像が認められることがあります。

今回の症例では、上顎犬歯の根尖部に大きな病変が認められ、外科的な治療を行いました。

上顎左犬歯を原因とする歯根嚢胞
上顎左犬歯を原因とする歯根嚢胞

ここで注意したいのは、X線写真で大きな根尖病変が確認されたからといって、画像だけで「歯根嚢胞」と確定できるとは限らないことです。

根尖部には歯根肉芽腫や歯根嚢胞などが生じることがあり、確定診断には摘出した組織の病理組織学的検査が必要となる場合があります。

この症例では、根尖部の病変に対して外科的治療を行いました。

上顎犬歯部における歯根端切除術のための開窓

上顎犬歯部における歯根端切除術のための開窓
上顎犬歯部における歯根端切除術のための開窓

治療では、病変の状態に応じて、

  • 歯肉弁の剥離
  • 骨の開窓
  • 病変組織の除去
  • 歯根端の切除
  • MTAによる逆根管充填

などを行いました。

歯根端切除術と逆根管充填後の状態

歯根端切除術と逆根充後に人工骨を填入
歯根端切除術と逆根充後に人工骨を填入

骨欠損の状態などを考慮し、この症例では骨補填材を使用しています。

なお、骨補填材の使用がすべての歯根端切除術で必要になるわけではありません。

術後の経過

術後3か月のX線写真では、病変部に治癒傾向が認められました。

歯根端切除術後3か月の経過観察像

歯根端切除術後3か月の経過観察像
歯根端切除術後3か月の経過観察像

根尖部の骨の治癒には時間がかかるため、その後も定期的にX線撮影などを行い、経過を確認していくことが大切です。

歯茎にニキビのようなできものがあると、自分で押したり潰したりしたくなるかもしれません。

しかし、自分で潰すことはおすすめできません。

膿が出て一時的に小さくなっても、歯の根などに感染源が残っていれば再び形成される可能性があります。

また、フィステルだと思っていたものが別の病変である可能性もあります。

繰り返しできる白いできものや排膿がある場合には、自分で処置せず歯科医院を受診してください。

フィステルが自然に小さくなったり、一時的に消えたりすることがあります。

しかし、見た目からフィステルがなくなっただけでは、原因となった感染が治癒したかどうかは判断できません。

症状がなくなっても、必要に応じてX線検査などを行い、原因となった歯や周囲組織の状態を確認することが重要です。

フィステルは、歯の根や歯周組織に感染・炎症があることを知らせるサインの一つです。

膿が排出されることで痛みや腫れが少なくなり、「治ったのでは?」と思ってしまうことがあります。

しかし、症状が軽くても感染源が残っている可能性があります。

原因を早い段階で特定し、歯の状態に応じた適切な治療を行うことが、歯を保存するためにも重要です。

歯茎に白いできものがある
同じ場所から繰り返し膿が出る
以前に根管治療をした歯の歯茎が腫れている

このような症状がある場合には、痛みがなくても一度歯科医院で診てもらいましょう。

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フィステルは、痛みがなくても歯の根の周囲で感染が続いているサインのことがあります。早めに原因を確認し、適切な治療を行うことで、歯を保存できる可能性があります。

「痛みがないから大丈夫」と自己判断せず、歯ぐきの腫れや白いできものを見つけたら早めにご相談ください

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筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

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日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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