アナフィラキシーショックとは

  • 歯科の偶発症の一つアナフィラキシーショックの原因は歯科麻酔薬などアレルゲンの暴露です。
  • 症状は蕁麻疹、腫れなどの皮膚症状、呼吸器症状です。
  • 血圧低下と頻脈、重症化すると徐脈から心停止することもあります。
  • 対応は生体情報モニタ装着、水平位+下肢の挙上、酸素投与、アドレナリン(エピペン)の筋注、AEDでの心肺蘇生などです。

アナフィラキシーショックとは?アレルギー反応による生命の危険

アナフィラキシーショックは、アレルギーの原因となるアレルゲン(抗原)が体内に入ることにより、複数の臓器にアレルギー症状が起こり、生命に危険を与える状態のことをいいます。

歯科の偶発症アナフィラキシーショックの原因

アレルゲン(抗原)として局所麻酔薬、抗生物質、鎮痛薬、ラテックスなど主な原因となります。

その他、ホルムアルデヒド含有根管治療剤、水酸化カルシウム系根充剤、止血用ゼラチン貼付剤などがあります。

アナフィラキシーショックのメカニズム

免疫をつかさどる肥満細胞の表面に存在するY抗原特異的IgE抗体に抗原(アレルゲン)が結合(抗原抗体反応)することで肥満細胞内の化学伝達物質が血中に放出(脱顆粒)されます。

放出された化学伝達物質(ケミカル・ メディエーター)が血管などに影響を与え、様々な症状が発現します。

アナフィラキシーショックの症状

循環器症状

正常血圧:120mmHg未満/80mmHg未満、脈拍の正常値:60〜100回/分、酸素飽和度(SpO2)の正常値:99~96%。

血圧低下と頻脈(初期)から徐脈(末期)
血圧低下と頻脈(初期)から徐脈(末期)

血圧低下と頻脈(初期)

化学伝達物質(ロイコトリエン、ヒスタミンなど)が血中に放出されることによって、血管透過性亢進と漏出が起こります。

分りやすく言うと血管壁がスカスカになり、血管内の液体成分(血液など)が血管壁から外に漏れ出す状態です。

血管内の液体成分が少なくなることで血圧低下が起こり、酸素飽和度も低下します。また、化学伝達物質の中には血管拡張作用を持ったものもあります。

これらのメカニズムによりアナフィラキシーショックが起こった初期には急激な血圧低下が起こります。代償性に血流を増やす必要で頻脈となります。※ 症例の中には最初から徐脈となる場合もあります。

血圧低下と徐脈(末期)

アナフィラキシーショックに対する対応が適切に行われないと、病態は悪化し、徐々に脈はゆっくり(徐脈)となり、最終的には心停止となります。

アナフィラキシーは、このように循環器系に大きなダメージを与えます。

皮膚・粘膜症状(蕁麻疹や腫れ)

蕁麻疹や腫れ
蕁麻疹や腫れ

血管から液体成分が外に漏れ出すことにより、体表面から見ると、赤く腫れているように見えたり、ブツブツの蕁麻疹となって現れます。皮膚・粘膜症状はアナフィラキシーの主要症状です。

腫れる(浮腫)が舌や喉、咽頭部で起こると上気道を閉塞させ、窒息の危険性があります。

気管支収縮で呼吸器症状(喘息や呼吸困難)

気管支収縮で呼吸器症状(喘息や呼吸困難)
気管支収縮で呼吸器症状(喘息や呼吸困難)

化学伝達物質のロイコトリエンには気管支収縮作用があります。そのため、喘息の様な症状となり、息を吐くときに喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイする音)が起こります。

気管支が狭くなっているので息が苦しくなり、呼吸困難となります。

血管収縮や呼吸状態が悪いので酸素飽和度は低下します。

アナフィラキシーショックと血管迷走神経反射の鑑別

歯科麻酔学第7版第14章

アナフィラキシーと血管迷走神経反射は発現状況や血圧低下など似ている点があります。最大の鑑別ポイントは皮膚症状(蕁麻疹、腫れ、痒み)の有無です。

アナフィラキシーショック血管迷走神経反射
発生確率極めて少ない。
歯科麻酔(リドカイン)による発症確率
1/100万人~150万人
極めて多い。
既往歴既往歴が無い場合がある。7~8割に既往歴がある。
発現状況アレルゲン(抗原)の
暴露後(局所麻酔や投薬後)。
緊張・痛みなどのストレスが与えられた直後。
症状皮膚症状(蕁麻疹、腫れ、痒み)
血圧低下
頻脈(初期)から徐脈(末期)
※ 例外:最初から徐脈もあり
呼吸症状(喘息様、呼吸困難)
「意識消失(失神)」「顔面蒼白」「発汗」
徐脈(心拍数が60回/分以下)⇒血圧低下
経過持続的で、ショックへと移行し、
自然回復はない
一過性で、通常自然回復。

アナフィラキシーショックの5分間:緊急対応の重要性と手順

5分が生死を分ける

救急車を呼んでから到着まで平均すると約9分かかります。アナフィラキシーショックが起きた場合、5分以内の処置を行わないと死亡リスクが急激に上がります。

STEP

119番に通報

アナフィラキシーと疑った場合には必ず救急車を呼ぶ必要があります。 専門病院での処置が必要だからです。救急車が到着するまでに歯科医院で出来ることを下記に列挙します。

119番に通報

STEP

生体情報モニタ装着

生体情報モニタは、人間のバイタルサイン(心拍数、血圧、酸素飽和度など)をモニタリングする装置です。バイタルサインを継続的に測定して記録し、患者の状態に異常が起こった時に警告音などで知らせます。

アナフィラキシーと診断したら生体情報モニタをセットし、継続的にバイタルサインの評価を行います。

生体情報モニタ装着

STEP

水平位+下肢の30cm挙上

血圧低下で頭部への血流量が低下します。寝たまま足を30cm程持ち上げる(クッションなどの支えを入れる)ことで、足の血液を心臓に戻しやすくし、頭部への血流量を増加させる効果が期待出来ます。

水平位+下肢の30cm挙上

STEP

酸素投与

上気道や舌の浮腫があったりすると呼吸困難になっている場合があります。また、酸素飽和度が低下しているため、十分な量の酸素投与(6~8リットル/分)を行います。

酸素投与

STEP

アドレナリン(エピペン)の筋肉注射

アドレナリン0.01mg/kgを大腿前外側部に筋注します。(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg )

エピペンは、ペン形アドレナリン自己注射器として開発されたもので、太ももの外側部に強く押し当て数秒間待てば自動的に必要量が注入される仕組みになっています。

黄色の製剤:アドレナリン0.3mg-体重30kg以上の方

緑色の製剤:アドレナリン0.15mg-体重15kg~以上30kg未満の方

アナフィラキシーショックを疑ったらエピペンの注射はためらってはいけません。エピペンの注射で急激に症状が改善します。仮にアナフィラキシーショックでなかった場合でもエピペンの注射を行ったことによるリスクは極めて低いからです。

アドレナリン(エピペン)の筋肉注射

STEP


心停止時のAEDによる心肺蘇生

AEDは、自動体外式除細動器のことで、心臓が痙攣を起こして止まってしまった時に電気ショックを与える装置です。

当院に設置してあります。

心停止時のAEDによる心肺蘇生

2相性アナフィラキシー

歯科医院でアナフィラキシーショックの治療が上手くいって症状が改善した患者であっても、数十分~数時間後に症状が再発する事があります。これを2相性アナフィラキシーといます。原因ははっきりとしませんが、少なくとも24時間は入院した上、経過観察が必要です。

当院では歯科口腔外科分野の処置を、適切な検査・診断の元に実施しております。できる限り痛みやリスクを抑えた施術を心がけ、術後のケアまでしっかり実施致します。江戸川区篠崎にて、アナフィラキシーショックの対応が出来ている歯科口腔外科の治療をご希望の方は、ふかさわ歯科クリニック篠崎までお気軽にご相談ください。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FULASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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