目次

オトガイ神経麻痺とは、顎の先端から下唇にかけての感覚異常(しびれ・鈍さ・違和感)が現れる状態です。多くは親知らずの抜歯やインプラント手術、外科的処置のあとに発症しますが、まれに腫瘍や外傷が原因となることもあります。早期の診断と治療が、回復の可能性を高めるカギとなります。

🧬オトガイ神経の位置と役割

オトガイ神経(mental nerve)は、下顎の中を走る下歯槽神経の枝のひとつで、下顎の外側(オトガイ孔)から出て、下唇やオトガイ部(あご先)の皮膚に感覚を伝える働きを担っています。
🔎この神経が障害されると、見た目では異常がなくても「触れても感覚がない」「しびれる」といった症状が出ます。

オトガイ神経の位置と役割
オトガイ神経の位置と役割

❓「麻痺」とはどのような状態か?

医療現場で使われる「麻痺」とは、神経の伝達機能が部分的または完全に失われた状態を指します。オトガイ神経麻痺では、感覚神経の機能低下が主であり、痛み・触覚・温度感覚の鈍化や消失といった症状が中心です。
🧊とくに**「鈍くて違和感があるのに痛みがない」**という不思議な感覚が多く報告されています。

📌下歯槽神経との関係

オトガイ神経は、**下歯槽神経(inferior alveolar nerve)**の末梢枝にあたります。下歯槽神経は、親知らずの近くを通っており、抜歯やインプラント手術時に損傷を受けやすい位置にあります。この神経が損傷されると、その枝であるオトガイ神経にも影響が及び、結果としてオトガイ神経麻痺が発症します。

🦷術前の画像診断(CTなど)で下歯槽神経の走行を確認することが、神経損傷を予防するために極めて重要です。

🟧主な原因と誘因

オトガイ神経麻痺は、歯科治療や外科的処置をきっかけに発症することが多い神経障害です。以下に代表的な原因を詳しく解説します。

🦷親知らずの抜歯後の合併症として

もっとも頻度が高いのが、下顎の親知らず(下顎第三大臼歯)の抜歯後に生じる神経麻痺です。
親知らずの根の先端が下歯槽神経管(オトガイ神経の上流)に接している場合、抜歯操作の圧力や器具の接触によって、神経が損傷されることがあります。

📸CTによる術前の位置確認がとても重要であり、術後に「唇やあごのしびれ」が続く場合は、すぐに歯科医へ相談することが推奨されます。

🛠インプラント・矯正・顎骨手術後

インプラント治療では、下顎の骨に人工歯根を埋め込む際に下歯槽神経に触れてしまうリスクがあります。神経損傷が起こると、そこから枝分かれしているオトガイ神経にも影響が出ることがあります。

また、下顎骨の矯正手術(顎変形症の治療など)や、骨造成手術も同様にリスクを伴います。術者の解剖学的知識と経験が、麻痺を防ぐ鍵となります。

💉局所麻酔による神経損傷

一見軽微に思える局所麻酔の注射でも、針が神経に直接接触したり、周囲の血流障害を引き起こすと、麻痺が発生する場合があります。

🧪特に下顎孔付近の伝達麻酔(下歯槽神経ブロック)では、誤って神経に触れるリスクが高いため、術中に電気が走るような感覚があった場合はすぐに申告することが大切です。

💄美容整形(輪郭形成・骨切り)との関連性

美容目的の**下顎の輪郭形成手術(オトガイ形成、下顎角形成など)**も、オトガイ神経に近接して行われるため、麻痺のリスクがあります。

👄特に下顎骨の骨切り術では、オトガイ孔やその周囲を通る神経を誤って損傷することがあり、術後に「口元の感覚が戻らない」といったトラブルが起きるケースも報告されています。

🟨現れる症状の特徴

オトガイ神経麻痺が起こると、見た目にはわかりにくいものの、日常生活に支障をきたす不快な感覚が続くことがあります。以下に、代表的な症状を詳しく紹介します。

😶下唇や顎のしびれ・感覚異常

もっともよく見られるのが、下唇からあご先にかけてのしびれやピリピリした違和感です。症状は片側に限られることが多く、軽度の感覚低下から、まったく触れている感覚がない状態までさまざまです。

🪞鏡で見ても異常は見られないため、「気のせいかな?」と感じる方もいますが、放置せず早期に歯科や口腔外科を受診することが大切です。

🧊冷感・熱感への鈍麻や過敏

オトガイ神経が損傷すると、**温度に対する感覚が鈍くなる(鈍麻)ことがあります。
逆に、わずかな冷たさや熱さを強く感じる
異常知覚(過敏症)**として現れるケースもあります。

🍦アイスクリームやお湯で「ビリッ」とするような感覚が続く場合は、神経の回復が不完全であるサインかもしれません。

🧏‍♀️麻痺と知覚鈍麻の違い

「麻痺」とは、完全に感覚が失われた状態を指すことが多く、触れてもまったく何も感じないのが特徴です。
一方「知覚鈍麻」とは、感覚が一部残っているが、明らかに鈍く感じるという状態です。

🧠オトガイ神経麻痺では、多くのケースが**「完全な麻痺」ではなく「知覚鈍麻」や「違和感」**として自覚されます。微妙な感覚の変化を言語化するのは難しいですが、医師に詳しく伝えることが診断に役立ちます。

🟩診断方法と検査の流れ

オトガイ神経麻痺の診断では、どの段階でどのように神経が損傷しているのかを正確に把握することが重要です。ここでは、歯科医院や専門医で行われる代表的な検査の流れをご紹介します。

🩺問診と視診

診断の第一歩は、患者さんの訴える症状を丁寧に聞き取ることです。

  • いつから症状が出たか?
  • どの範囲にしびれや違和感があるか?
  • 親知らずの抜歯や手術歴があるか?

🗣加えて、顔の左右差や皮膚感覚の違いを確認する触診や視診も重要です。こうした初期情報から、おおよその神経損傷の部位や程度が推測されます。

📷パノラマ・CT画像による診断

神経の損傷位置や、原因となった歯やインプラントの位置関係を把握するために、レントゲン検査(パノラマX線)やCT撮影が行われます。

🦷特にCT画像は神経管の位置を3次元で把握できるため、術前評価にも術後トラブルの確認にも欠かせません。

  • 神経と歯根がどれだけ近いか?
  • 手術で器具が神経に接触していないか?

📌これらを確認することで、今後の治療方針の決定にもつながります。

⚡神経伝導速度検査(必要な場合)

より専門的な施設では、**神経の電気的伝達速度を測定する「神経伝導速度検査」**が行われることもあります。

💡この検査では、神経に微弱な電気刺激を与え、その伝達の反応を計測することで、どの程度の損傷があるか、再生の可能性があるかを評価します。

ただし、この検査はすべての症例で行われるわけではなく、回復が遅れている場合や、手術による神経修復を検討する際に用いられます。

オトガイ神経麻痺は、原因や損傷の程度により回復のスピードや方法が異なります。初期は経過観察で改善するケースが多くありますが、場合によっては積極的な治療が必要になります。

🌿自然回復を促す保存的治療

軽度の神経損傷であれば、時間の経過とともに自然に回復するケースが多く見られます。
神経はゆっくりと再生する性質があるため、数週間から数ヶ月かけて徐々にしびれが改善していくこともあります。

🕒ただし、2~3ヶ月経っても改善が見られない場合は、積極的な介入を検討する必要があります。

💊ビタミンB群や神経栄養薬の内服

神経の再生を助ける作用があるとして、ビタミンB₁₂(メコバラミン)やビタミンB₆を含む神経栄養薬が処方されることがあります。

🧠これらは直接的な即効性はありませんが、神経の修復環境を整えるサポート薬として、保存療法の一環として広く使われています。

💉PAPT療法・鍼治療など補完医療

しびれの改善を目的に、PAPT(神経電気刺激療法)や鍼灸治療を併用するケースもあります。
これらは神経の血流改善や、機能回復を目的とした補完的なアプローチです。

🌸鍼治療では、東洋医学的視点でツボを刺激し、神経回復を促すとされており、一部の医療機関では保険適用のケースもあります。

🔧改善が見られない場合の神経修復術

保存療法や補完医療を行っても症状が続く場合には、**専門的な神経外科的処置(マイクロサージャリー)**が検討されます。

このような手術では、損傷した神経の端と端をつなぎ直したり、神経移植を行うことで感覚の回復を目指します。

🏥手術は専門施設での対応が必要であり、発症から6ヶ月以内の対応が望ましいとされます。

オトガイ神経麻痺の回復には時間がかかることがありますが、日常的なセルフケアやリハビリが神経の再生をサポートしてくれます。ここでは、ご家庭でも取り組める方法を紹介します。

🤲マッサージや温熱療法の効果

血行を促進し、神経の回復を助けるために、やさしく触れるマッサージや温めるケアが効果的です。

  • 清潔な手であご先〜下唇にかけて、軽く円を描くようにマッサージ
  • 蒸しタオルやカイロを使って1日数回温める

🌡このようなケアは、知覚異常の軽減や感覚の再教育にもつながります。ただし、強く押すのは逆効果なので注意しましょう。

🗣リハビリ中に注意すべきこと

しびれが残っている間は、知らないうちに口の中を噛んでしまうなどのリスクがあります。リハビリ中は以下の点に気をつけましょう:

  • 熱い飲み物や食べ物でやけどをしないようにする
  • 口唇や頬をかみやすくなるため、食事中はゆっくりと噛む意識をもつ
  • 電動歯ブラシは感覚が戻るまで控えるのも◎

👄日常生活での「うっかりトラブル」を防ぐことで、リハビリもスムーズに進みます。

🧘‍♀️心身のストレスケアも大切

神経はとてもデリケートな組織のため、ストレスや睡眠不足が回復の妨げになることがあります。

  • 質の良い睡眠をとる
  • 緊張をほぐすために深呼吸やストレッチを取り入れる
  • 「治らないかも…」という不安をため込まない

🌱ポジティブな気持ちを持つことも神経の再生にとっては大切です。必要であれば医師やカウンセラーへの相談も検討しましょう。

オトガイ神経麻痺に関しては、多くの患者さんが共通する疑問や不安を抱えています。ここでは、特に相談の多い3つの質問にお答えします。

💬回復にどのくらいの時間がかかる?

症状や損傷の程度にもよりますが、軽度であれば数週間~2〜3ヶ月程度で回復するケースが多いです。
ただし、神経が大きく損傷していたり、圧迫が長期間続いていた場合は、半年〜1年以上かかることもあります。

🕰「3ヶ月経っても改善が見られない場合は、再評価や治療方針の見直しが必要」と考えましょう。

💬神経の再生は本当に可能なの?

はい、末梢神経であるオトガイ神経は、条件が整えば再生可能とされています。
ただし、神経の再生速度は非常にゆっくりで、1日1mm程度と言われています。
そのため、焦らず根気よく治療やケアを続けることが大切です。

🧠また、**完全断裂や瘢痕形成(かさぶたのような癒着)**がある場合は自然回復が難しいため、手術による修復が必要になることもあります。

💬歯科医選びのポイントは?

オトガイ神経麻痺が疑われる場合、以下のような視点で歯科医・医療機関を選ぶことをおすすめします:

  • 🦷口腔外科や神経障害に詳しい歯科医院かどうか
  • 📷CTなど画像診断設備が整っているか
  • 🤝他院や大学病院との連携ができているか

また、「しびれ」などの症状を丁寧に聞いてくれて、経過観察や必要に応じた紹介もしてくれる医院が望ましいです。

📍地域によっては専門医が少ない場合もあるため、初診時に「神経麻痺の経験があるか」を尋ねてみるのもよいでしょう。

オトガイ神経麻痺は、「命に関わらないから大丈夫」と放置されがちですが、日常の快適さやQOL(生活の質)に直結する神経障害です。
違和感をそのままにしてしまうと、回復が遅れたり、慢性化するリスクもあります。

⏱「気づいたら早めに歯科へ」

しびれや感覚の異常に気づいたら、できるだけ早く歯科や口腔外科を受診しましょう。
発症から早い段階であれば、自然回復や保存療法で十分に改善が期待できるケースも多くあります。

🦷特に、親知らずの抜歯や顎の手術を受けたあとで「なんか変だな」と感じたら、放置せず相談することが大切です。

📣セカンドオピニオンも活用しよう

現在の治療でなかなか改善が見られない、または診断に納得がいかない場合は、**他の専門医に相談する「セカンドオピニオン」**を積極的に利用しましょう。

🔍異なる視点からの診断やアプローチにより、新しい治療の選択肢が見つかることもあります。

💬「しびれが治らない」と悩む前に、あなたに合った医療機関を見つけて、前向きな一歩を踏み出しましょう。

江戸川区篠崎で、下唇やあご先のしびれ・感覚異常にお悩みの方へ

それは「オトガイ神経麻痺」の可能性があります。親知らずの抜歯やインプラント手術、顎の外科処置の後に生じやすいこの症状は、早期対応が回復のカギです。

当院では、レントゲンによる神経走行の確認や、専門的な診断・リハビリ指導にも対応しています。
「なんとなくおかしい」「感覚が鈍い気がする」と感じたら、お気軽にご相談ください。
江戸川区篠崎で安心して神経麻痺のご相談ができる歯科医院として、丁寧に対応いたします。

【動画】横向きに埋没した親知らずの抜き方

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

Follow me!