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唾液の働きとは?驚くべき役割とその仕組み

唾液の働きとは?驚くべき役割とその仕組み

【動画 33秒】唾液の働きとは?驚くべき役割とその仕組み

唾液の基本的な概要

唾液は、私たちの健康を支える重要な体液の一つです。日常的に私たちの口腔内で分泌される液体であり、唾液の主成分は水(約99%)ですが、その他にも酵素、電解質、抗菌成分など、さまざまな物質が含まれています。
成人の場合、1日に約1〜1.5リットルの唾液が分泌されており、この唾液が口腔内だけでなく、全身の健康にも多くの影響を与えています。唾液は消化をサポートし、口内環境を整え、免疫機能の一端も担っています。


唾液の生成メカニズム(唾液腺とその働き)

唾液は、主に以下の3つの唾液腺によって生成されます。

1. 耳下腺(じかせん)

  • 場所: 耳の下あたりに位置します。
  • 分泌物の特徴: サラサラとした液体が多く、主に消化酵素(アミラーゼ)を含みます。
  • 主な役割: デンプンを分解し、消化を助けます。

2. 顎下腺(がっかせん)

  • 場所: 顎の下にあります。
  • 分泌物の特徴: サラサラと粘り気のある唾液を混合して分泌します。
  • 主な役割: 口内を保湿し、消化や口腔内環境の維持をサポートします。

3. 舌下腺(ぜっかせん)

  • 場所: 舌の下に位置します。
  • 分泌物の特徴: 粘り気のある唾液が多いです。
  • 主な役割: 口内を潤し、飲み込みをスムーズにします。

これらの唾液腺は副交感神経の刺激を受けて活発に働きます。食事や匂い、視覚刺激などが唾液の分泌を促進します。また、リラックスしている状態や、十分な水分補給が唾液分泌を安定させる重要な要因です。

このように唾液は単なる「口の中の水分」ではなく、複雑かつ重要な役割を担っていることがわかります。

唾液の最大の役割は、食べ物に唾液をまぜて食塊を形成し、嚥下するための潤滑剤としての役割やアミラーゼという酵素により消化の手助けをすることですが、それ以外にも様々な役割を担っています。

従って、唾液の量が少なくなると役割を果たせ無くなり、様々な問題が発生します。

① 緩衝作用

唾液
唾液

唾液検査(サリバテスト)

食べ物が入ると、口の中では細菌が砂糖や炭水化物を分解して作り出す酸によって、口の中が酸性に傾きます。酸性の状態が長く続くと、歯の表面からカルシウムやリンが溶け出し虫歯が始まります(脱灰といいます)。

ところが、唾液にはその酸を中和し正常に戻す作用(唾液の緩衝能)があります。唾液がどんどん分泌されることによって、酸性に傾いた口の中のpHは中和され、元の正常な状態に戻ります。

唾液には個人固有の緩衝作用の大小があります。この能力は唾液検査(サリバテスト)で判定出来ます。

唾液を付けた試験紙の色で判定出来ます。黄色なら緩衝能が低く、緑色は中間、濃い青色は緩衝能が高いことを示しています。

② 抗菌作用・自浄作用

口腔内細菌
口腔内細菌

抗菌作用

唾液は口の中の細菌を除去し、唾液中に含まれている免疫物質(リゾチームやラクトフェリン、免疫グロブリン)によって粘膜などの細菌感染・ウイルス感染を防いでいます。

また、口の中の好気性菌(善玉菌)の健全な育成にも役立っています。

自浄作用

唾液は、口の中を流れ続けて食べ物の残りカスを洗い流し、口の中をいつも清潔に保つ働きをしています。

虫歯や歯周病の予防

唾液の殺菌・抗菌作用、自浄作用で虫歯や歯周病の発生を抑えてくれます。

③ 再石灰化作用

再石灰化作用
再石灰化作用

歯にカルシウムを補給

唾液の中には、歯の成分であるカルシウムやリンが含まれています。食後しばらくすると、唾液のもつ酸を中和するはたらきによってお口の中のpHが高まります。

そして、唾液中のカルシウムやリンが歯の表面に付着して、溶け出したエナメル質を補ってくれるのです。これを唾液の『再石灰化』作用といいます。

再石灰化を促進するものにフッ素や口腔ケア用品にMIペーストがあります。

④ ムチンの粘膜保護作用

唾液に含まれるムチンが食物を包んで胃や食道に負担をかけないように粘膜を保護し、小腸や大腸に運びます。

そのため、熱いものでも粘膜を火傷すること無く食べることが出来、味覚を維持することが出来ます。また、会話する時も粘膜を傷つけること無く、スムーズに行うことが出来ます。

熱い食べ物
熱い食べ物

唾液は温熱刺激、科学的な刺激、機械的な刺激を緩和する作用があります。

味蕾
味蕾

唾液にまじった食べ物に含まれた味の成分が、味を感じる味蕾細胞(舌に存在)へ届きやすくなります。

会話
会話

唾液の存在で舌や頬の筋肉が滑らかに動くことが出来るので、会話がスムーズに行えます。

⑤ 口臭予防作用

bad breath

口臭の最も大きな原因は舌苔です。唾液の分泌により舌苔は洗い流され口臭が起こりにくくなります。

また、殺菌作用により、口臭の原因菌である嫌気性菌の発生を抑えてくれます。

口臭予防
口臭予防

⑥ 入れ歯の安定作用

denture

入れ歯の粘膜面に唾液が介在することで、吸着力が増します。

また、入れ歯と粘膜が擦れる事で起こる痛みの発生を防いでくれます。

入れ歯の安定
入れ歯の安定

⑦ 成長因子

NGF(神経成長因子)

growth

NGF(神経成長因子)

人間の神経は、加齢とともに壊れていきますが、NGF(神経成長因子)の作用で壊れた神経細胞を修復し活性化するため、記憶学習能力の向上につながります。

従って、よく噛むということはNGFを大量に体内に入れることであり、脳に直接刺激することで800万人と言われる認知症患者の予防にもつながります。

EGF(上皮成長因子)

粘膜上皮の修復を促す作用があるため、口の中の傷が治りやすい。

※ スタンリー・コーエンは唾液腺でEGF・NGFを発見した功績によりノーベル医学生理学賞を受賞しています。

⑧ 消化をサポートする作用

酵素(アミラーゼ)の働き

唾液に含まれる酵素「アミラーゼ」は、炭水化物(デンプン)を分解する重要な役割を担っています。口腔内で食べ物を噛み砕きながら、アミラーゼがデンプンを糖に分解し、胃腸での消化をスムーズにします。この過程により、消化器官への負担が軽減され、栄養吸収の効率が向上します。

食物の分解と飲み込みやすさの向上

唾液は、食べ物を柔らかくし、塊にまとめることで飲み込みやすくします。食べ物がスムーズに食道を通るために、唾液は欠かせない存在です。また、口の中で食べ物が均一に混ざることで、味覚を感じやすくする効果もあります。


⑨ 身体全体の健康を守る免疫作用

唾液中の免疫成分(リゾチーム、ラクトフェリンなど)

唾液には、リゾチームやラクトフェリンなどの抗菌成分が含まれており、細菌やウイルスの活動を抑える免疫作用があります。これらの成分は、口腔内感染症の予防に貢献するだけでなく、全身の健康維持にも役立っています。唾液は口腔内だけでなく、体全体の防御システムの一部として機能しています。


日常生活でできる習慣改善

食事中のよく噛む習慣

よく噛むことは唾液分泌を促進する最も基本的な方法です。噛む回数が増えると、唾液腺が刺激されて唾液の分泌量が増加します。また、よく噛むことで食べ物が細かく砕かれ、消化の負担を軽減する効果もあります。ゆっくりと食事を楽しみながら噛む習慣をつけることで、健康な口腔環境を維持できます。

水分補給の重要性

唾液の大部分は水分で構成されているため、体内の水分が不足すると唾液分泌が低下します。こまめな水分補給を心がけることで、口腔内の潤いを保つことができます。特に、カフェインやアルコール飲料は脱水を引き起こしやすいため、適量の水やノンカフェインの飲み物を選ぶことが重要です。


唾液腺を刺激するエクササイズ

唾液腺を刺激するエクササイズ

唾液分泌を促すマッサージ方法

唾液腺の周辺をマッサージすることで、分泌を促進することができます。以下は簡単にできるマッサージ方法です:

  1. 耳下腺マッサージ
    耳たぶの下あたりを指で軽く押しながら円を描くようにマッサージします。
  2. 顎下腺マッサージ
    顎の下、下顎骨の内側を親指で軽く押しながらなぞります。
  3. 舌下腺マッサージ
    舌の下を軽く指で押して刺激します。

これらを1日数回、リラックスした状態で行うことで、唾液分泌が改善される効果が期待できます。


特定の食品や飲料がもたらす効果

酸味のある食品(例: レモン、梅干し、酢)

酸味のある食品が唾液分泌を助ける理由

酸味のある食品(例: レモン、梅干し、酢)や飲料は、唾液腺を強く刺激して分泌を促進します。酸味が舌の味覚神経を刺激することで、反射的に唾液が多く分泌される仕組みです。また、これらの食品は食欲を増進させる効果もあります。ただし、摂取しすぎると歯のエナメル質に影響を与える可能性があるため、適量を心がけることが重要です。

口内トラブルとその影響

虫歯や歯周病のリスク増加

唾液の分泌が減少すると、口腔内のpHバランスが崩れ、虫歯や歯周病のリスクが高まります。唾液には酸を中和し、歯の再石灰化を促す働きがありますが、これが十分に機能しなくなると、酸によって歯が溶けやすくなり、虫歯が進行しやすくなります。また、唾液が持つ抗菌作用が低下するため、歯周病菌の繁殖が促され、歯茎の炎症や歯槽骨の吸収といった症状が悪化します。

口臭や味覚異常の発生

唾液が不足すると、口内が乾燥しやすくなり、細菌が繁殖しやすい環境になります。この細菌が口臭の主な原因となります。また、唾液が十分に分泌されないと食べ物が舌の味蕾に均等に届かず、味覚異常が起きやすくなります。これにより、食事の楽しみが損なわれるだけでなく、栄養状態にも悪影響を及ぼす可能性があります。


全身への健康影響

消化不良や感染症のリスク増大

唾液には食べ物を分解し、消化を助ける酵素(アミラーゼなど)が含まれていますが、唾液の量が減少すると、この消化サポート機能が低下します。その結果、消化不良や胃腸の負担が増大する可能性があります。また、唾液が持つ抗菌作用が弱まると、口腔内の細菌やウイルスが全身に拡散し、感染症のリスクが高まります。特に高齢者や免疫力が低下している人にとっては、肺炎や胃腸炎などの重篤な健康問題に発展する可能性があります。

唾液を用いた健康診断技術

唾液中のバイオマーカーと病気の早期発見

唾液は採取が簡便で痛みがないため、健康診断や病気の早期発見に利用される可能性が高い体液として注目されています。唾液中には、がんや糖尿病、感染症などに関連するバイオマーカー(特定の分子や物質)が含まれています。これらのバイオマーカーを検出することで、血液検査を行わなくても病気の兆候を早期に発見できる可能性があります。特に、口腔がんや全身疾患の初期段階での診断に役立つ技術として、研究が進められています。


唾液とストレスの関連性

コルチゾール濃度測定によるストレスチェック

唾液には、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールが含まれています。コルチゾールの濃度はストレスレベルに比例して上昇するため、唾液を採取してコルチゾール濃度を測定することで、ストレス状態を客観的に評価できます。従来の血液検査に比べて簡便で、ストレスケアや心理的な健康状態の管理に役立つツールとして活用されています。また、定期的な測定により、ストレスに対する個々の反応をモニタリングすることも可能です。


唾液と腸内フローラの関係

乳酸菌と唾液の相互作用

唾液中には乳酸菌が含まれることがあり、腸内フローラと唾液の間には密接な関係があるとされています。唾液は腸内フローラのバランスを維持するために必要な栄養素を供給する一方、乳酸菌が口腔内の健康を保つ役割も果たします。特に、乳酸菌が歯周病や口臭の原因となる細菌の増殖を抑制し、口腔内環境を整える効果があることが分かっています。このように、唾液と腸内フローラの相互作用は、全身の健康維持において重要な要素といえます。

1. 口腔の乾燥を防ぐ

口呼吸は口腔内の乾燥を引き起こし、唾液分泌を減少させる原因になります。鼻呼吸を意識し、室内の湿度を適切に保つことも効果的です。

2. ストレス管理を行う

ストレスが唾液分泌を抑制することがあります。リラックスできる時間を作り、ストレスを溜めない生活を心がけましょう。

3. 薬の副作用に注意

特定の薬(抗ヒスタミン剤や降圧剤など)は唾液の分泌を抑えることがあります。医師に相談し、必要に応じて代替薬を検討してください。

4. バランスの良い食生活

栄養バランスが崩れると、唾液腺の働きが低下する場合があります。ビタミンやミネラルを含む食品を積極的に摂取しましょう。

子どもの場合

  • よく噛む習慣を身につける: 柔らかい食品ばかりではなく、少し硬めの食品を食べる機会を増やすことで唾液腺を刺激します。
  • 飲み物の選び方: 砂糖入りの飲料を控え、水や無糖のお茶を勧めることで虫歯予防にもつながります。

高齢者の場合

加湿器の利用: 高齢者は口腔乾燥が起きやすいため、室内を加湿することで快適な環境を保つことが重要です。

口腔体操の実施: 舌や頬の筋肉を動かす体操を毎日行うことで唾液腺を活性化させます。

義歯や口腔ケアの徹底: 義歯が正しく装着されていない場合、唾液腺の刺激が減少します。歯科での定期的なチェックを心がけましょう。

唾液は、虫歯や歯周病を防ぎ、口臭抑制や消化のサポート、免疫力の向上など、多くの役割を果たす重要な体液です。唾液が減少すると口内環境が悪化し、健康に影響を及ぼす可能性があります。よく噛む習慣や水分補給、唾液腺マッサージなど、簡単にできるケアで唾液分泌を促すことが可能です。

歯科医院では唾液量のチェックやアドバイスも行っており、適切なケアでお口の健康を守ることができます。唾液の力を活かし、毎日の生活をより快適にしてみませんか?

【動画】なかなか取れない舌苔の完全除去方法

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FULASAWA

  • 登山
  • ヨガ

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私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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