目次

虫歯が進行してC3の段階に達すると、歯の神経(歯髄)にまで細菌が侵入し、冷たいものに凍みる症状が現れます。
この「冷たいものに凍みる」段階であれば、まだ神経を残せる可能性は高いですが、
温かいものにまで凍みるようになると、神経保存が難しくなるリスクが急速に高まります。

神経を守るためには、症状の違いに早く気づき、できるだけ早期に歯科医院を受診することが重要です。
この記事では、虫歯C3における症状の進行と、神経を保存できるかどうかの判断ポイントについて詳しく解説します。

🦷虫歯C3の症状で神経保存の可能性を判定

虫歯C3

【STEP 1】虫歯C3とは?

  • 虫歯が歯の神経(歯髄)にまで達した状態
  • 放置すると激しい痛みや歯の神経壊死に繋がるリスクあり

【STEP 2】冷たいものに凍みたら即来院を!

  • 虫歯C3では、歯髄に細菌が侵入すると冷たいものに凍み始める
  • 「冷たいものに凍みる」段階なら、まだ神経を残せる可能性が高い
    • ➡ 約90%の症例で神経保存が可能(個人差あり)

【STEP 3】温かいものに凍みると神経保存が難しくなる

  • 次の段階では温かいものにも凍みるようになる
  • この症状が出ると、神経を残せる可能性は50%以下に低下

【STEP 4】症状の違いは細菌進入の程度による

  • 冷たいものだけ凍みる段階=歯髄への感染が浅い
  • 温かいものにも凍みる段階=歯髄内部まで感染が進行している可能性大
  • ➡ できるだけ早期の受診と適切な処置が重要!

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【STEP 1】虫歯を完全除去する

  • 浸潤麻酔を施してから、タービンやエンジンで軟化象牙質を徹底除去
  • 圧力をかけず注水下で慎重に操作し、歯髄へのダメージを最小限に
  • 歯髄近くはスプーンエキスカベーター(手動器具)でやさしく除去
軟化象牙質を徹底除去
軟化象牙質を徹底除去

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【STEP 2】MTAセメントで歯髄を保護

  • 完全に虫歯を除去した後、スーパーボンドまたはMTAセメントで歯髄保護
  • 仮詰めをして、予後(経過)を観察

【STEP 2-1】点状露髄への対応

  • 軟化象牙質除去中に歯髄が露出することがあり、これを「点状露髄」と呼ぶ
  • 点状露髄からの出血量が多いと治療成功率が低下
  • 止血がうまくいかない場合は、抜髄が必要になるケースも
MTAセメントで歯髄保護
MTAセメントで歯髄保護

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【STEP 4】コンポジットレジン充填

  • 次回来院時に症状がなければ、コンポジットレジンで充填し治療完了
  • 虫歯が大きい場合は、型取りを行いクラウン(被せ物)治療を選択することも

【補足】症状が出た場合の対応

  • 冷温痛や咬合痛(噛んだ時の痛み)が出た場合は、神経を抜く「抜髄治療」が必要
  • 早期発見・早期対応が重要
コンポジットレジン充填
コンポジットレジン充填

🏷MTAセメントとは?(正式名称・成分)

MTAセメントとは、正式には「Mineral Trioxide Aggregate(ミネラルトリオキサイドアグリゲート)」と呼ばれる歯科用セメントです。
主な成分は、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、硫酸カルシウムなどの無機物で構成されています。
これらの成分が水と反応することで硬化し、高い封鎖性と生体親和性を発揮するのが特徴です。

もともとは歯の神経(歯髄)を保護する目的で開発され、現在では歯髄保存治療や根管治療など、歯科治療のさまざまなシーンで活用されています。

🧪どんな特性がある?(封鎖性・殺菌効果・アルカリ性)

MTAセメントには、歯科治療において重要な以下の特性があります。

  • 封鎖性
     細菌の侵入を防ぐ高い密閉力があり、再感染リスクを大幅に低減します。
  • 殺菌効果
     硬化中に強アルカリ環境(pH約12)を作り出し、細菌やウイルスを効果的に殺菌します。
  • アルカリ性
     高いアルカリ性を持続的に保持するため、歯の組織再生を促進するとともに、炎症を抑える働きも期待されています。

これらの特性によって、治療部位の治癒を促進し、神経をできるだけ残す治療を実現できるのです。

🌟従来セメントとの違い

従来使用されていたリン酸亜鉛セメントやグラスアイオノマーセメントと比較すると、MTAセメントは次のような点で優れています。

  • 生体親和性が高い
     体内組織とのなじみが良く、異物反応を起こしにくい。
  • 封鎖性が圧倒的に高い
     従来品に比べ、細菌の侵入をより強力に防ぎます。
  • 自己修復能力
     微小な隙間を自ら塞ぐ「シール性」に優れ、治療後の安定性を高めます。

一方で、硬化に時間がかかる、操作に技術を要するなどの課題もありますが、総合的に見て、歯の保存率を大きく向上させる画期的な素材といえます。

🛡直接覆髄(Direct Pulp Capping)とは?

直接覆髄(ダイレクトパルプキャッピング)とは、虫歯治療や外傷などで露出してしまった歯の神経(歯髄)を保護するための処置です。
露出した神経にMTAセメントを直接覆うことで、神経の自己修復を促し、神経を抜かずに保存できる可能性が高まります。

MTAセメントは高い封鎖性と殺菌力を持つため、治療後の感染リスクが低く、従来の材料(カルシウム水酸化物など)に比べて、
歯髄の生存率・成功率が格段に向上していることが、さまざまな研究で報告されています。

特に、若年者の歯や生活歯(まだ神経が生きている歯)では、積極的にMTAセメントによる直接覆髄が選択されています。

🧵根管治療における使用

MTAセメントは、根管治療(歯の神経を取った後の管内処置)にも広く活用されています。

具体的な使い方としては、

  • 感染除去後の根管充填材として使用
  • 根管の先端(根尖)部分の封鎖材として使用
  • 穿孔(根管壁に穴が空いた場合)の修復材として使用

などが挙げられます。

MTAセメントは、細菌の侵入を防ぐ高い封鎖性組織再生を促す特性を兼ね備えているため、
根管治療後の再感染リスクを減らし、治療成功率を向上させる重要な役割を果たしています。

難治性の根管治療(再根管治療)でも、MTAの使用により歯を残せる可能性が高まっています。

🦴穿孔部修復や歯根端切除術での応用

歯科治療中に、歯根や根管の壁に穿孔(穴)が開いてしまうことがあります。
このような穿孔部を修復する際にも、MTAセメントが活躍します。

穿孔部にMTAセメントを充填することで、

  • 穴を確実に封鎖し、細菌侵入を防ぐ
  • 周囲の骨組織や歯肉組織の自然治癒を促進する

といった効果が期待できます。

また、**歯根端切除術(エーペクソトミー)**と呼ばれる外科的根管治療では、
感染源となった根の先端を切除した後に、その断端部をMTAセメントで封鎖する方法が主流になっています。

これにより、根尖部からの感染拡大を防ぎ、長期的な歯の保存を可能にするのです。

🧱NEX MTA・スーパーMTA・プロルートMTAなど

現在、歯科医院で使用されているMTAセメントにはいくつかの種類があります。代表的なものを紹介します。

  • NEX MTA(GC社)
     優れた封鎖性と持続的な強アルカリ性を持ち、露出歯髄の保護や穿孔部修復に使用されます。
     操作性が良く、均一な練和が可能である点が特徴です。
  • スーパーMTAペースト(サンメディカル社)
     即時硬化性が高く、硬化時間が短いことが特徴。
     特に穿孔修復や直接覆髄において、素早い処置が求められる場合に適しています。
  • プロルートMTA(Dentsply社)
     世界的に広く使用されているスタンダードなMTA製品。
     臨床実績が豊富で、さまざまな文献や研究データでも効果が証明されています。

これらの製品はいずれも、神経保存根管治療などで高い成功率を誇っていますが、
それぞれに使用感や特性の違いがあります。

🔍各製品の違いと選び方

MTAセメント製品を選ぶ際には、以下のポイントが重要です。

  • 操作時間・硬化時間の違い
     ▶️「すぐに固まる」か「時間をかけて固まる」かにより、治療の手順が変わります。
     例)スーパーMTAペーストは即時硬化性が高いので、短時間で処置を終えたいケースに向いています。
  • 粒子の細かさ・練和しやすさ
     ▶️操作性に直結します。NEX MTAは滑らかなペースト状になりやすく、扱いやすいと評価されています。
  • 価格帯
     ▶️保険診療・自費診療かによってコスト感も変わります。
     プロルートMTAは比較的コストパフォーマンスに優れる製品です。
  • 症例に合わせた適応性
     ▶️穿孔修復、直接覆髄、根尖封鎖など、目的によって最適な製品を選びます。

🦠高い殺菌性と長期封鎖性

MTAセメントは、歯科治療において「感染防止」と「長期安定」に大きな効果を発揮します。
特に注目すべきは、高い殺菌性優れた封鎖性です。

  • 高い殺菌性
     硬化中に強いアルカリ環境(pH約12)を形成し、多くの細菌や真菌類を効果的に殺菌します。
     これにより、術後の感染リスクを大幅に減少させることができます。
  • 長期封鎖性
     MTAは細かい隙間にも浸透し、硬化後は強固なシール性を発揮。
     長期間にわたって、細菌や体液の侵入を防ぐため、治療後の安定性が高まります。

この「強アルカリ殺菌+高密閉」という二重の効果によって、治療部位の再感染を防ぎ、歯の保存率を高めることが可能となります。

🧡歯髄保存率の向上

MTAセメントの登場により、これまでなら抜髄(神経を取る処置)が避けられなかったケースでも、神経を残せる可能性が大幅に上がりました。

特に、

  • 虫歯が神経近くまで進行したケース
  • 外傷で神経が露出した場合
  • 歯髄炎が軽度にとどまっているケース

などにおいて、MTAセメントによる直接覆髄治療が選択されることが増えています。

近年の研究では、MTAを用いた覆髄治療の成功率は80%〜90%以上とされており、
従来の覆髄材と比べても圧倒的に高い歯髄保存率が示されています。

🏥治療後の成功率と患者メリット

MTAセメントを使った治療は、患者さんにとっても多くのメリットがあります。

  • 自分の歯を長く保てる
     神経を保存できることで、歯の寿命が延び、将来的な抜歯リスクを下げられます。
  • 再治療リスクが低減
     封鎖性が高いため、根管治療後の再感染(根尖病変など)が起こりにくくなります。
  • 治療後の痛みやトラブルが少ない
     強アルカリによる殺菌効果と生体親和性の高さにより、術後の炎症や痛みが最小限に抑えられます。

このように、MTAセメントは**「治療の成功率を高める」「将来のトラブルを予防する」**という二つの大きな役割を担っています。

⏳硬化に時間がかかる

MTAセメントの最大の弱点の一つは、硬化に時間がかかることです。
通常、MTAセメントは完全に硬化するまでに少なくとも2〜4時間以上を要し、
状況によってはさらに長時間かかる場合もあります。

このため、治療中に待機時間が必要だったり、
治療回数を分けて対応しなければならないケースもあります。

最近では、即時硬化型のMTA(スーパーMTAペーストなど)も登場していますが、
依然として一般的なMTAは「硬化の遅さ」が注意点とされています。

💸治療コストが高め

MTAセメントは、材料自体が高価であることに加え、
使用にあたって高度な技術や時間が必要なため、治療費が高くなる傾向にあります。

特に、

  • 神経保存を目的とした自費診療
  • 再根管治療や穿孔修復などの特殊処置

では、1本あたり数万円〜十数万円の費用がかかることも珍しくありません。

保険適用外となるケースも多いため、治療前に費用面の説明をしっかり受けることが大切です。

🩹取り扱いに高度な技術が必要

MTAセメントは扱いが非常に繊細で、操作ミスが治療成績に直結する材料です。

具体的には、

  • 適切な水分量で練和しないと硬化不良を起こす
  • 締め固め方が不十分だと封鎖性が低下する
  • 使用環境(水分管理)が悪いと性能が落ちる

といったリスクがあります。

そのため、MTAセメントを安全かつ効果的に使いこなすには、
専門的な知識と高度な技術、豊富な臨床経験が求められます。

歯科医院を選ぶ際は、**「MTAセメント治療に実績があるか」「治療例を公開しているか」**を一つの判断基準にするのがおすすめです。

📝診断〜治療計画の立案

MTAセメントを使用するかどうかは、まず精密な診断に基づいて決定されます。

具体的には、

  • レントゲン撮影やCT撮影による歯根・神経の状態確認
  • 歯髄の生存状態(生活歯か失活歯か)の診査
  • 穿孔の有無や位置の特定

などを行ったうえで、**「神経保存が可能かどうか」**を慎重に判断します。

診断結果をもとに、

  • 覆髄治療
  • 根管充填
  • 穿孔修復 など、最適な治療計画を立案し、**事前に患者さんへ十分な説明と同意(インフォームドコンセント)**を行います。

🦷実際の治療ステップ

MTAセメントを使った治療は、以下のような流れで行われます。

  1. 患部の消毒・除菌
     感染源となる虫歯組織や汚染物質を除去し、清潔な環境を作ります。
  2. 露出部や穿孔部へのMTAセメントの適用
     適切な練和操作のもと、MTAセメントを必要箇所に慎重に充填します。
  3. 硬化を待つ
     数時間〜数日間、MTAの硬化を待つ必要があるため、一時的な仮封を行うことが多いです。
  4. 最終的な補綴処置(被せ物や詰め物)
     MTAが完全に硬化・安定した後に、最終的な修復処置を施します。

症例によっては、治療回数が2回以上に分かれる場合もありますが、
歯の神経をできるだけ温存するためには慎重な対応が必要です。

🩺治療後の注意点・メンテナンス

MTAセメント治療が成功した後も、定期的なメンテナンスと経過観察が欠かせません。

  • 術後1〜3か月は経過観察
     レントゲン撮影などで、根尖部や修復部の状態をチェックします。
  • 6か月〜1年ごとの定期検診
     神経の生存状態や周囲骨組織の変化を確認し、問題がないかをチェックします。

また、日常生活では

  • 強い衝撃を避ける
  • 過度な咬合圧をかけない
  • 虫歯や歯周病予防に努める(丁寧なブラッシング、定期クリーニング)

などのセルフケアも重要です。

MTAセメントによる治療は「施術して終わり」ではなく、術後のメンテナンスと二人三脚で成功させるものです。

❓誰でも受けられる?

MTAセメント治療は、基本的には歯の神経をできるだけ保存したい患者さんに適した治療法です。
しかし、すべてのケースで使用できるわけではありません。

例えば、

  • 重度の感染や炎症で歯髄がすでに壊死している場合
  • 根管内の感染が広範囲に広がっている場合
  • 歯の破折や骨吸収が著しい場合

などでは、MTAセメントを用いた保存治療が難しいこともあります。

そのため、適応できるかどうかは、事前の精密な診断が不可欠です。
まずは歯科医院で、現在の歯の状態を正確にチェックしてもらいましょう。

❓保険適用はされる?

MTAセメントを使用した治療は、**原則として自由診療(自費治療)**になります。
理由は、MTAセメントが高価な材料であり、また日本の健康保険制度では「特殊材料」として扱われるためです。

ただし、症例によっては、

  • 根管充填材の一部使用
  • 歯髄覆髄材として限定使用

など、保険診療内で部分的に使用できるケースもあります。
適用の可否は歯科医院によって対応が異なるため、治療前に必ず料金や適用範囲を確認しましょう。

❓失敗することはある?

MTAセメントは非常に優れた材料ですが、100%成功する治療ではありません
失敗リスクとしては以下のような点が挙げられます。

  • MTA硬化不良による封鎖不全
  • 術中の感染再発
  • 神経の予後不良(治療後に神経が壊死すること)

特に、
✅ 操作技術の未熟さ
✅ 術後管理の不十分さ
✅ 患者さん自身の体質や生活習慣
などが関与すると、成功率が下がる可能性があります。

そのため、実績豊富な歯科医師による適切な治療と、治療後のメンテナンスの継続が重要です。

🦷 歯髄保存治療(直接覆髄など)

  • 約16,500円(税込)〜77,000円(税込)症例による

🧵 根管治療(MTAセメントを使用した根管充填など)

  • 約25,000円(税込)〜132,000円(税込)症例による

MTAセメントは、歯の神経をできるだけ残すために開発された、革新的な歯科材料です。
高い殺菌効果と優れた封鎖性により、これまで抜髄(神経除去)しか選択肢がなかったケースでも、
自分の歯を守れる可能性が大きく広がりました。

一方で、MTAセメント治療は

  • 高度な技術力
  • 適切な診断
  • 術後の丁寧なメンテナンス が不可欠であり、すべての歯に万能ではありません。

治療を検討する際は、MTAセメントの特徴やメリット・デメリットをよく理解し
信頼できる歯科医師と十分に相談した上で治療を進めましょう。

もし「神経をできるだけ残したい」「将来の歯の健康を守りたい」と考えているなら、
MTAセメント治療は非常に有力な選択肢です。
まずは、専門的な知識と実績のあるクリニックで相談してみてください。🦷✨

江戸川区篠崎で、できるだけ「歯の神経を守る治療」をご希望の方へ

当院では、最新の歯科材料であるMTAセメントを使用し、虫歯治療や神経保存に力を入れています。

従来なら神経を取らざるを得なかった症例でも、MTAセメントによって歯髄を保護し、
ご自身の歯をできる限り長く使い続けられる可能性が高まっています。

「冷たいものに凍みる」「神経をできるだけ残したい」と感じたら、
ぜひ一度、江戸川区篠崎の当院にご相談ください。
お一人おひとりの症状に合わせた最適な治療プランをご提案いたします。🦷✨

【動画】歯茎のニキビのような出来物・フィステル

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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