「この奥歯は抜歯が必要ですね」と言われると、多くの方が「もう残せないのか」と不安になるでしょう。

しかし、すべてのケースで抜歯が唯一の選択肢とは限りません。

奥歯(大臼歯)は複数の歯根を持つため、悪くなった根だけを治療・切除し、健康な根を残すことで歯を保存できる場合があります。その代表的な治療法が**ルートセパレーション(根分割)とヘミセクション(分割抜歯)**です。

もちろん、すべての歯に適応できる治療ではありません。また、将来的に抜歯が必要になる可能性もあります。それでも、自分の歯をできるだけ長く残すための有効な選択肢となることがあります。

この記事では、ルートセパレーションとヘミセクションの違いや、実際の症例をもとにした治療の流れについて、わかりやすく解説します。


大臼歯には複数の歯根があります。

  • 下顎の奥歯(6番・7番)は2~3本の歯根
  • 上顎の奥歯は3本の歯根

これらの歯根は、それぞれが独立して骨に支えられています。

根分岐部病変に対するルートセパレーション

ルートセパレーションは、**根分岐部病変(歯根の分かれ目まで歯周病や感染が進行した状態)**に対して行われる保存治療の一つです。

下顎の奥歯を2本の歯根に分割し、それぞれを独立した歯として保存します。歯と歯の間にスペースを作ることで歯間ブラシが通るようになり、根分岐部を清掃しやすくなるため、プラークコントロールの改善や病変の再発予防が期待できます。

※すべての症例に適応できる治療ではなく、歯の状態や周囲の骨の支持などを総合的に評価したうえで適応を判断します。

ヘミセクション

上下奥歯において、

  • 歯根1本だけ感染している
  • 歯根1本だけ歯周病が進行している
  • 歯根1本だけ破折している
  • 根管治療が一部の根だけ困難な場合

というケースでは、悪い根だけを抜歯し、健康な根を残せる場合があります。

これがヘミセクションという保存治療です。

一見よく似た治療ですが、目的が異なります。

治療法内容
ルートセパレーション歯を2本の根に分割し、それぞれを保存する治療
ヘミセクション病気になった根だけを抜去し、健康な根だけを残す治療

どちらも共通する目的は、

できる限り自分の歯を残すこと

です。

今回ご紹介するのは、下顎第一大臼歯(6番)の根分岐部病変に対して、できるだけ歯を残すことを目標に治療を行った症例です。

STEP1 根分岐部病変を発見

レントゲン検査では、下顎6番の2本の歯根の間(根分岐部)に黒い透過像が認められました。

これは、歯の神経の感染が歯根の分かれ目まで広がり、歯を支える骨が吸収している状態です。

このまま放置すると感染がさらに進行し、抜歯が必要になる可能性が高くなります。

下顎6番根分岐部に広がる透過像。根分岐部病変を示すX線所見
下顎6番根分岐部に広がる透過像。根分岐部病変を示すX線所見

STEP2 根管治療で感染を除去

まずは歯の内部にある感染した神経や細菌を徹底的に取り除くため、根管治療を行いました。

複雑な根管を丁寧に清掃・消毒した後、根の先端まで緊密に充填し、細菌が再び侵入しにくい状態を作ります。

この段階で感染を十分に抑えることが、その後の保存治療を成功させる重要なポイントになります。

複雑な根管形態でも、各根管が適切に清掃・充填されていることが確認できます。
複雑な根管形態でも、各根管が適切に清掃・充填されていることが確認できます。

STEP3 ルートセパレーション(根分割)

感染が落ち着いた後、歯を2本の根に分割するルートセパレーションを行いました。

この治療の目的は、

  • 根分岐部を清掃しやすくする
  • 歯間ブラシが通る形態にする
  • 汚れがたまりにくい環境を作る

ことです。

歯を分割することで、これまで磨けなかった部分にも歯ブラシや歯間ブラシが届くようになります。

STEP4 連結冠で補強

分割した歯は、そのままでは噛む力に耐えにくくなります。

そこで、それぞれの歯根に被せ物を装着し、金属冠で連結して補強しました。

この設計により、

  • 噛む力を分散できる
  • 歯の安定性が向上する
  • 清掃性を維持できる

というメリットが得られます。

歯根分割後、連結冠で補強した大臼歯。歯間ブラシが通る清掃性の高い設計。
歯根分割後、連結冠で補強した大臼歯。歯間ブラシが通る清掃性の高い設計。

STEP5 定期管理で良好に経過

治療後は歯間ブラシを使用しながら、定期的なメンテナンスを継続しました。

ルートセパレーションを行った歯では、患者さん自身のセルフケアが長期予後を左右します。

適切な清掃を続けることで、数年間にわたり良好な状態を維持できました。

STEP6 遠心根の歯根破折

しかし、長期間の使用により遠心根に縦方向の歯根破折が生じました。

ルートセパレーション後の歯は、

  • 支える骨が少なくなる
  • 根が細くなる
  • 咬合力が集中しやすい

といった理由から、通常の歯よりも破折のリスクが高くなることがあります。

連結冠による補強を行っていても、長年の咬合力によって破折することは珍しくありません。

根分割後に補綴していた遠心根が縦破折し、透過像として確認される。
根分割後に補綴していた6番遠心根が縦に破折し、透過像として確認される。
赤矢印で示された部分は、分割した遠心根側の歯肉縁付近に出血・黒変・隙間がみられる破折を疑う所見です。これは、レントゲンで確認された 遠心根の歯根破折 と一致しています。
赤矢印で示された部分は、分割した遠心根側の歯肉縁付近に出血・黒変・隙間がみられる破折を疑う所見です。これは、レントゲンで確認された 遠心根の歯根破折 と一致しています。

STEP7 ヘミセクション:保存困難と判断し遠心根を抜歯

破折した遠心根は修復が困難であり、感染の原因となるため保存は難しいと判断しました。

十分に歯を残す努力を行いましたが、この段階では抜歯が最善の選択となりました。

6番遠心根の抜歯直後の抜歯窩が黒く透過像として確認される。
6番遠心根の抜歯直後の抜歯窩が黒く透過像として確認される。

STEP8 ブリッジで噛む機能を回復

抜歯後は6番近心根と7番を支台歯として3歯ブリッジを装着しました。

ブリッジによって、

  • 噛む機能の回復
  • 見た目の改善
  • 咀嚼能力の維持

が可能となりました。

現在も支台歯に異常はなく、安定した経過をたどっています。

7番と6番近心根を支台とし、ブリッジで補綴した治療後のX線像。
7番と6番近心根を支台とし、ブリッジで補綴した治療後のX線像。

この症例から分かること

この症例では最終的に6番遠心根の抜歯となりましたが、最初から抜歯を選択したわけではありません。

まずは感染を取り除き、ルートセパレーションによって歯を保存することを目指しました。

その結果、一定期間ご自身の歯で噛み続けることができました。

歯を残す治療は、必ず一生残せることを保証するものではありません。

しかし、可能な限り歯を残そうとすることには大きな意味があります。

  • 抜歯を避けられる可能性がある
  • ご自身の歯で噛み続けられる
  • インプラントやブリッジを先送りできる場合がある
  • 噛む感覚を維持しやすい
  • 根分岐部の清掃性が改善する

一方で、次のような注意点もあります。

  • 適応できる症例が限られる
  • 定期的なメンテナンスが欠かせない
  • 歯根破折のリスクがある
  • 被せ物による補強が必要になる
  • 将来的に抜歯となる可能性もある

治療後も歯科医院での定期管理と、ご自宅でのセルフケアが非常に重要です。

ルートセパレーションやヘミセクションを行った歯では、毎日の清掃が予後を大きく左右します。

特に、

  • 歯間ブラシ
  • デンタルフロス
  • 正しい歯磨き
  • 定期的なクリーニング

を継続することで、再感染や歯周病の進行を抑えられる可能性があります。

抜歯より良い治療ですか?

症例によって異なります。条件が整えば、ご自身の歯を残せる可能性があります。

どれくらい長持ちしますか?

お口の状態や噛み合わせ、セルフケア、定期的なメンテナンスによって大きく異なります。

インプラントとどちらが良いですか?

歯の状態によって適した治療法は異なります。まずは歯を保存できる可能性を十分に検討したうえで、必要に応じてインプラントやブリッジなども含めた治療計画をご提案します。

保険診療で受けられますか?

症例や治療内容によって異なります。詳しくは診査・診断のうえでご説明いたします。

ルートセパレーションやヘミセクションは、重度の根分岐部病変や一部の歯根に問題が生じた大臼歯に対して、できるだけ歯を残すことを目的に行われる保存治療です。

すべての症例に適応できるわけではありませんが、条件が整えば抜歯を回避し、ご自身の歯で噛み続けられる可能性があります。

一方で、治療後も破折や歯周病の進行などにより、将来的に抜歯が必要になることもあります。そのため、正確な診断と適切な治療計画、そして継続的なメンテナンスが欠かせません。

「抜歯と言われたけれど、本当に残せないのだろうか」とお悩みの方は、一度歯の状態を詳しく調べたうえで、保存の可能性について歯科医師に相談してみることをおすすめします。

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ルートセパレーションやヘミセクションは、すべての歯に適応できる治療ではありません。しかし、精密な診査・診断によって、抜歯を避けられる可能性が見つかることもあります。大切な歯をできるだけ残したい方は、まずはお気軽にご相談ください。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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