目次

転倒やスポーツ、事故などで歯をぶつけると、歯が欠けたり、グラグラしたりすることがあります。

しかし、歯の外傷で注意しなければならないのは、見た目に異常がなくても、歯の神経や歯根、歯を支える骨が損傷している可能性があることです。

ぶつけた直後には痛みがなくても、数週間から数年後に歯が変色したり、歯ぐきが腫れたり、根の先に膿がたまったりするケースもあります。

歯を残せる可能性を高めるためには、受傷直後の適切な応急処置と、歯科医院での診断、その後の経過観察が重要です。

この記事では、歯をぶつけた直後に行うべき応急処置、すぐに歯科医院を受診すべき症状、歯科医院で行う検査・治療、子どもの乳歯をぶつけた場合の注意点について詳しく解説します。

まずは慌てず、口の中と全身の状態を確認しましょう。

外傷により歯を強くぶつけた症例(前歯部)
外傷により歯を強くぶつけた症例(前歯部)

確認したい症状

  • 歯が欠けたり折れたりしていないか
  • 歯がグラグラしていないか
  • 歯の位置がずれていないか
  • 歯が歯ぐきの中へめり込んでいないか
  • 歯が抜けていないか
  • 歯ぐきや唇から出血していないか
  • 噛み合わせに違和感がないか
  • 噛んだときに痛みがないか
  • 唇や頬の中に歯の破片が入り込んでいないか

歯が折れていなくても、歯を支えている歯根膜や歯槽骨、歯の神経が損傷していることがあります。

「見た目はいつもと変わらない」「痛みが少ない」という場合でも、強くぶつけたときは歯科医院を受診しましょう。

頭や顔を強く打った場合は全身状態も確認する

歯をぶつけた際に頭や顔も強く打っている場合は、歯だけでなく全身の状態にも注意が必要です。

次のような症状がある場合は、歯科医院より先に救急外来や医療機関を受診してください。

  • 意識がもうろうとしている
  • 一時的に意識を失った
  • 吐き気や嘔吐がある
  • 強い頭痛がある
  • けいれんが起きた
  • 物が二重に見える
  • 鼻や耳から出血または透明な液体が出ている
  • 口が開きにくい
  • 顔の形や噛み合わせが大きく変わった

顎の骨折や頭部外傷を伴っている可能性があります。

応急処置の方法は、出血している場合、歯が欠けた場合、歯が完全に抜けた場合などで異なります。

出血している場合

清潔なガーゼを出血している部分に当て、5~10分程度、軽く圧迫して止血します。

何度もガーゼを外して確認すると血が止まりにくくなるため、しばらく押さえ続けてください。

次のような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

  • 10分以上圧迫しても出血が止まらない
  • 傷が深く開いている
  • 唇や舌が大きく切れている
  • 傷の中に異物が入っている
  • 強い腫れがある

腫れや痛みがある場合

保冷剤や氷を清潔なタオルで包み、口の外側から冷やします。

冷やす時間は、10~15分程度を目安にし、一度外してから再び冷やしてください。

氷や保冷剤を皮膚や歯ぐきへ直接当て続けると、低温やけどや組織障害を起こすことがあるため注意しましょう。

歯が欠けた・折れた場合

欠けた歯の破片が見つかったら、捨てずに歯科医院へ持参してください。

歯の状態によっては、歯の破片を接着できる場合があります。

破片は乾燥させず、牛乳または生理食塩水などに入れて保管してください。破片が見つからない場合は、唇や頬の傷の中に入り込んでいないか確認が必要です。

永久歯が完全に抜けた場合

永久歯が完全に抜けた状態を「完全脱臼」といいます。

完全脱臼は時間との勝負です。抜けた歯が口の外で乾燥している時間が短いほど、再植後の経過が良くなる可能性があります。

次の手順で対応してください。

  1. 歯の根ではなく、白い歯冠部分を持つ
  2. 汚れていても強くこすらない
  3. 流水で洗う場合は、歯根をこすらず短時間で優しく洗う
  4. 牛乳、歯の保存液または生理食塩水に入れる
  5. できるだけ早く歯科医院へ向かう

牛乳などがない場合は、飲み込む危険がない年齢であれば、頬と歯ぐきの間に入れて持参する方法もあります。ただし、小さな子どもや意識がはっきりしない方には行わないでください。

永久歯であり、本人または周囲の大人が落ち着いて対応できる場合は、歯の向きを確認して抜けた場所へ戻す方法もあります。ただし、無理に押し込んだり、向きが分からないまま戻したりせず、難しい場合は保存液や牛乳に入れて歯科医院へ持参してください。

IADTのガイドラインでも、抜けた永久歯はできるだけ早く再植すること、再植できない場合は適切な保存液に入れて速やかに受診することが推奨されています。

乳歯が抜けた場合

抜けた乳歯は元の場所へ戻さないでください。

乳歯を再植すると、骨の中で発育している永久歯を傷つけるおそれがあります。

抜けた歯が乳歯か永久歯か分からない場合は、無理に戻さず、牛乳または生理食塩水に入れて歯科医院へ持参してください。

乳歯の外傷と永久歯の外傷では治療方針が異なるため、歯科医院での判断が必要です。

誤った対応をすると、歯根膜や歯の神経をさらに傷つけてしまうことがあります。

次の行動は避けましょう。

  • グラグラした歯を指や舌で何度も動かす
  • ずれた歯を無理に押し戻す
  • 抜けた歯の根を持つ
  • 歯根の表面を歯ブラシなどでこする
  • 抜けた歯をアルコールや消毒液に浸す
  • 抜けた歯をティッシュやガーゼに包んで乾燥させる
  • 強く何度もうがいをする
  • 硬い物を噛む
  • 痛みがないことを理由に放置する
  • 抜けた乳歯を元へ戻す

特に、完全に抜けた永久歯を乾燥させないことが重要です。

歯の外傷には、歯の表面がわずかに欠けたものから、歯根や骨にまで損傷が及ぶものまであります。

歯の打撲・振盪

歯の位置や揺れに明らかな異常はないものの、歯を支える歯根膜がダメージを受けた状態です。

主な症状

  • 噛むと響く
  • 歯を軽くたたくと痛い
  • 何もしていなくても違和感がある
  • 歯が浮いたように感じる

見た目に異常がなくても、後から神経が反応しなくなることがあるため、経過観察が必要です。

歯がグラグラする・亜脱臼

歯の位置は大きく変わっていないものの、歯を支える組織が損傷して動揺している状態です。

歯ぐきから出血したり、噛むと痛んだりすることがあります。

動揺の程度によっては、隣の歯と一時的に接着する「スプリント固定」を行います。

歯がずれた・脱臼

歯に強い衝撃が加わると、歯が本来の位置からずれることがあります。

主な脱臼の種類

  • 歯が外側や内側へずれる「側方脱臼」
  • 歯が抜ける方向へ飛び出す「挺出性脱臼」
  • 歯が歯ぐきや骨の中へめり込む「陥入・圧入性脱臼」
  • 歯が完全に抜ける「完全脱臼」

歯の位置がずれると、噛み合わせが変わったり、口を閉じにくくなったりします。

早期に元の位置へ戻し、固定する必要があるケースが多いため、できるだけ早く受診してください。

歯が欠けた・折れた

歯が欠けた場合は、損傷の深さによって治療方法が異なります。

エナメル質のみの破折

歯の最も外側にあるエナメル質だけが欠けた状態です。

欠けた部分が小さければ、角を滑らかに整えたり、コンポジットレジンで修復したりします。

象牙質まで達した破折

エナメル質の内側にある象牙質まで露出すると、冷たい物がしみたり、風が当たって痛んだりすることがあります。

細菌が神経へ入り込むのを防ぐため、早めの修復が必要です。

神経が露出した破折

歯が大きく折れ、赤い点や出血が見える場合は、歯の神経が露出している可能性があります。

受傷からの時間、神経の露出範囲、患者さんの年齢、歯根の成長状態などを考慮し、神経の一部を残す治療や根管治療を検討します。

特に、根が完成していない若い永久歯では、できる限り神経を残し、歯根の成長を促すことが重要です。

歯根が折れた

歯ぐきの中にある歯根が折れていることを「歯根破折」といいます。

主な症状

  • 歯がグラグラする
  • 噛むと痛い
  • 歯ぐきから出血する
  • 歯の位置がずれる
  • 数か月後に歯ぐきが腫れる

歯根破折は見た目だけでは分からないことがあります。レントゲン撮影の角度によっては破折線が写らない場合もあり、必要に応じて角度を変えた撮影や歯科用CTを検討します。

破折の位置や状態によっては、元の位置へ戻して固定することで歯を残せる場合があります。

歯槽骨が折れた

複数の歯がまとまって動く、噛み合わせが大きく変わった、歯ぐきと一緒に歯が動く場合は、歯を支えている歯槽骨が骨折している可能性があります。

歯槽骨骨折では、ずれた骨と歯を元の位置に戻し、一定期間固定する治療が必要です。

歯の外傷では、ぶつけた直後の症状だけで将来の状態を判断することはできません。

歯の内部にある神経や血管が損傷していても、受傷直後には反応が残っていることがあります。また、外傷によって神経の感覚が一時的に低下し、検査に反応しないこともあります。

そのため、初回の検査だけで「神経が生きている」「神経が死んでいる」と断定できない場合があります。

時間の経過とともに、次のような変化が現れることがあります。

  • 歯が灰色や黒色に変色する
  • 噛んだときに痛くなる
  • 歯ぐきが腫れる
  • 歯ぐきに白いできものができる
  • 膿が出る
  • 歯の揺れが強くなる
  • 歯根が少しずつ吸収される
  • 歯と骨が癒着する

外傷を受けた歯は、症状が落ち着いてからも定期的な確認が必要です。

左上顎1番を打撲して変色

上顎1番を打撲して変色


前歯を打撲してから1年以上かけて徐々に変色してきました。

歯の裏に穴を開け、死んだ神経を取る根管治療を行ないました。

右上顎1番を打撲して変色

上顎1番を打撲して変色


前歯を打撲してから数年経過して黒く変色しました。レントゲン写真を撮ると歯根嚢胞は出来ていませんでしたが、死んだ神経を取る処置を行いました。

歯をぶつけた後、歯がピンク色、灰色、茶色、黒色などに変わることがあります。

一時的にピンク色や赤色になる

歯の内部で充血や出血が起きると、歯が一時的にピンク色や赤みを帯びて見えることがあります。

時間の経過とともに元の色へ戻る場合もありますが、変色だけで神経の状態を判断することはできません。

灰色や黒色に変色する

歯の神経が壊死し、歯の内部にある血液成分などが象牙質へ入り込むと、歯が灰色や黒っぽくなることがあります。

永久歯では、変色とともに神経の反応がなくなり、根の先に炎症が認められる場合は根管治療を検討します。

ただし、変色したという理由だけで、直ちに神経を取るとは限りません。痛み、腫れ、歯髄検査、レントゲン所見などを総合して判断します。

黄色っぽく変色する

外傷後、歯の内部に硬い組織が作られ、神経の通り道である根管が狭くなることがあります。

この状態では、歯が黄色っぽく見えることがあります。症状や根の先の炎症がなければ、根管治療を行わず経過観察する場合もあります。

歯の神経が壊死するまでの期間は、外傷の強さや種類、歯根の成長状態などによって異なります。

受傷後すぐに神経が壊死することもあれば、数週間、数か月、数年後に異常が見つかることもあります。

神経の壊死が疑われる症状

  • 歯が灰色や黒色に変色した
  • 噛むと痛い
  • 何もしなくてもズキズキする
  • 歯ぐきが腫れた
  • 歯ぐきに白いできものができた
  • 膿が出る
  • レントゲンで根の先に黒い影が見える
  • 複数回の歯髄検査で反応がなくなった

歯髄検査は外傷直後に正確な反応が得られないことがあるため、時間を空けて繰り返し検査することがあります。

次のような症状がある場合は、できるだけ早く歯科医院へ連絡してください。

  • 永久歯が完全に抜けた
  • 歯が大きくずれた
  • 歯が歯ぐきの中へめり込んだ
  • 歯がグラグラしている
  • 歯が大きく折れ、神経が見えている
  • 噛み合わせが合わない
  • 複数の歯がまとまって動く
  • 出血が止まらない
  • 痛みが強く、食事ができない
  • 顔や歯ぐきが大きく腫れている
  • 唇や頬の傷が深い
  • 子どもが乳歯や生えたばかりの永久歯を強くぶつけた

特に、完全に抜けた永久歯は、歯が乾燥している時間が予後に影響します。受診前に歯科医院へ電話し、「永久歯が抜けた」「いつ抜けたか」「どのように保存しているか」を伝えてください。

歯をぶつけた際は、歯の表面だけでなく、歯根、神経、歯根膜、歯槽骨、周囲の軟組織まで確認します。

問診

次の内容を確認します。

  • いつぶつけたか
  • どこでぶつけたか
  • どのようにぶつけたか
  • 意識を失っていないか
  • 吐き気や頭痛がないか
  • 歯の破片や抜けた歯が見つかっているか
  • 以前にも同じ歯をぶつけたことがあるか
  • 破傷風ワクチンの接種状況
  • 全身疾患や服用中の薬があるか

事故や学校内でのけがの場合に備え、受傷時刻や状況を記録しておくとよいでしょう。

視診・触診

歯の欠け、出血、腫れ、歯の位置、噛み合わせ、歯の動揺、唇や頬の傷などを確認します。

打診検査

歯を軽くたたき、痛みや響き方を確認します。

打診痛がある場合は、歯根膜や歯槽骨が損傷している可能性があります。

歯髄検査

冷たい刺激や電気刺激を利用し、歯の神経の反応を調べます。

ただし、外傷直後は一時的に神経の反応が低下することがあるため、反応がないだけで神経壊死と断定せず、経過を追って再検査します。

レントゲン検査

レントゲンでは、次のような状態を確認します。

  • 歯根破折
  • 歯の位置のずれ
  • 歯槽骨骨折
  • 根の先の炎症
  • 歯根の吸収
  • 乳歯の下にある永久歯への影響
  • 歯の破片や異物の有無

必要に応じて、撮影角度を変えた複数枚のレントゲンや歯科用CTを使用します。

レントゲン診断-歯根まで及ぶ深い亀裂と歯根嚢胞 ― 保存が困難と判断された症例

歯根まで及ぶ深い亀裂と歯根嚢胞 ― 保存が困難と判断された症例
歯根まで及ぶ深い亀裂と歯根嚢胞 ― 保存が困難と判断された症例

治療方法は、歯の損傷状態、乳歯か永久歯か、歯根が完成しているか、受傷からの経過時間などによって異なります。

小さく欠けた歯の修復

欠けた範囲が小さい場合は、歯科用の樹脂であるコンポジットレジンを使用して形を整えます。

破折片の状態がよければ、破片を接着できることもあります。

神経を保護する治療

歯冠破折:神経まで露出なし
歯冠破折:神経まで露出なし

象牙質が露出している場合は、神経への細菌感染や刺激を防ぐため、露出部分を保護して修復します。

神経が一部露出している場合でも、受傷からの時間や歯の状態によっては、神経をすべて取らずに一部を残す治療が可能です。

スプリント固定

歯がグラグラしている場合や、元の位置へ戻した場合は、隣の歯と接着して一定期間固定します。

固定期間は外傷の種類によって異なります。

固定中も口腔内を清潔に保ち、歯科医師の指示に従って軟らかい食事を選びます。

歯の再植

完全に抜けた永久歯は、状態が許せば元の位置へ戻して固定します。

再植後は、歯根膜の損傷、歯根吸収、歯と骨の癒着、感染などが起こる可能性があるため、長期的な経過観察が必要です。

再植を行っても、必ず元の状態に戻るとは限りません。しかし、迅速かつ適切に対応することで、歯を保存できる可能性を高められます。

根管治療

歯の神経が壊死し、根管内で細菌感染が起きた場合は、根管治療を行います。

根管治療では、壊死した神経や感染物質を除去し、根管内を洗浄・消毒して薬剤を詰めます。

生えたばかりで根が未完成の永久歯では、歯根の成長状態に応じて、神経の一部を残す治療や再生を目指す治療を検討することがあります。

変色した歯への治療

根管治療が終了しても、変色した歯の色が自然に元へ戻るとは限りません。

見た目が気になる場合は、歯の状態に応じて次の方法を検討します。

  • 歯の内部から漂白するウォーキングブリーチ
  • コンポジットレジンによる修復
  • ラミネートベニア
  • セラミッククラウン

まず神経や根の先に問題がないか確認し、その後に審美的な治療を検討します。

変色した歯の治療例

STEP

歯が変色

歯をぶつけて変色しています。歯茎にフィステルが出来ています。

歯が変色

STEP

根管治療

歯の死んだ神経を取り、根管内を消毒して根管治療が終了したレントゲン写真です。

根管治療

STEP

ファイバーコア

冠の土台となるファイバーコアをセメントで装着したところです。

ファイバーコア

STEP

オールセラミック

オールセラミックを装着して治療は終了です。根幹治療によってフィステルは消失しています。

審美的に満足できる治療結果となりました。

オールセラミック

治療後は、傷ついた歯や歯根膜へできるだけ負担をかけないことが大切です。

食事

一定期間は、次のような硬い食べ物を避けましょう。

  • せんべい
  • 硬いパン
  • ナッツ類
  • 骨付き肉
  • 前歯でかじる必要がある食べ物

食べ物は小さく切り、ぶつけた歯を避けて噛みます。

歯磨き

口の中を不潔にすると、傷口や歯ぐきに炎症が起こりやすくなります。

柔らかめの歯ブラシを使用し、傷ついた部分を強くこすらず、周囲を丁寧に清掃してください。

運動

歯を固定している期間や歯の動揺が残っている間は、再び顔をぶつける可能性のある運動を控えます。

スポーツへ復帰する時期については、外傷の程度に応じて歯科医師へ確認してください。

歯の外傷は、治療が終わった時点ですべての問題が解決したとは限りません。

外傷の種類によっては、数か月から数年後に神経壊死、歯根吸収、歯根の炎症などが起こることがあります。

経過観察では、一般的に次の項目を確認します。

  • 痛みの有無
  • 歯の色
  • 歯の揺れ
  • 噛み合わせ
  • 歯髄検査への反応
  • 歯ぐきの腫れや膿
  • レントゲン上の変化
  • 歯根吸収の有無
  • 歯と骨の癒着の有無

診察の時期は外傷の種類によって異なりますが、受傷後数週間、数か月、半年、1年後などに確認し、その後も必要に応じて長期的に経過を追います。

IADTのガイドラインでも、外傷の種類に応じた複数回の臨床診査と画像検査によるフォローアップが示されています。

歯髄壊死

歯の神経と血管が損傷し、神経が死んだ状態です。

変色、痛み、歯ぐきの腫れ、膿などが現れることがあります。

根尖性歯周炎・根尖病変

神経が壊死して細菌感染が起こると、歯根の先に炎症や膿の袋ができることがあります。

症状がないまま進行する場合もあります。

歯根吸収

外傷によって歯根の表面が損傷すると、歯根が少しずつ吸収されることがあります。

進行すると歯を残すことが難しくなる場合があります。

アンキローシス

歯根膜が大きく損傷し、歯根と顎の骨が直接癒着する状態です。

成長期の子どもに起こると、周囲の歯や顎の骨が成長しても外傷歯だけが動かず、歯が沈んだように見えることがあります。

歯の変色

神経壊死や根管の狭窄により、灰色、黒色、黄色などに変色することがあります。

永久歯の形成異常

乳歯を強くぶつけると、その下で発育している永久歯に影響が及ぶことがあります。

永久歯が生えたときに、白色や黄褐色の変色、エナメル質形成不全、形態異常、萌出方向の異常などが見られる場合があります。

小さな子どもは転倒しやすく、上の前歯をぶつけることが多くあります。

乳歯の外傷では、乳歯そのものだけでなく、その下で発育している永久歯への影響を考える必要があります。

4歳の子どもが乳歯をぶつけた症例

4歳の子供が歯をぶつけて歯茎が腫れて青く内出血し、少し出血もしました。歯や歯茎が完治するのか心配です。永久歯に影響が出ないかも心配です。

5歳児が顔面を強打し歯茎が黒く変色

5歳児が顔面を強打し歯茎が黒く変色


5歳の子供が転倒して顔面を強打し、上顎の二本の乳歯及び歯茎を打撲しました。乳歯が少しぐらぐらし、歯茎からの出血が認められ亜脱臼(不完全脱臼)の状態です。

歯茎は内出血のため黒変しています。

僅かにずれた歯の位置を元に戻し、接着剤(スーパーボンド)で隣接歯に固定しました。

怪我をした歯茎は次亜塩素酸水で洗浄します。強い消毒液を使わないことが歯茎の治癒を早めるためには重要です。

同症例の乳歯根先端が折れたレントゲン写真


赤丸の所、向かって右側の乳歯の歯根先端部に破折線が認められます。

打撲を負った二本の乳歯の歯根は、自然吸収が進み、あと半年ほどで自然脱落するものと予想されます。従って、根管治療は行わずに経過観察でよいと思います。

後続永久歯の歯胚は健全と思われ、正常に大人の歯に生え変わるものと予想されます。

歯槽骨骨折が起こるほどの強い衝撃が加わった場合、後続永久歯に影響を与え、エナメル質形成不全や歯の形の異常などの合併症が起こることがあります。

乳歯をぶつけたときの応急処置

  • 出血している部分を清潔なガーゼで圧迫する
  • 腫れている場合は口の外側から冷やす
  • グラグラした歯を触らない
  • ずれた歯を無理に戻さない
  • 抜けた乳歯を元の場所へ戻さない
  • できるだけ早く歯科医院を受診する

乳歯では、永久歯への影響を避けることや、痛み・感染を防ぐことを重視して治療方針を決定します。

乳歯が歯ぐきの中へめり込んだ場合

乳歯が見えなくなった場合、「完全に抜けた」と思われることがありますが、実際には歯ぐきや骨の中へめり込んでいる可能性があります。

レントゲンで乳歯の位置と永久歯との関係を確認し、経過観察または必要な処置を行います。

乳歯が変色した場合

乳歯をぶつけた直後に、歯が赤色やピンク色になることがあります。また、数週間から数か月後に灰色や茶褐色へ変わることもあります。

変色した乳歯がすべて治療対象になるわけではありません。

次のような症状がある場合は、神経の壊死や感染が疑われます。

  • 歯ぐきが腫れた
  • 歯ぐきに白いできものができた
  • 膿が出る
  • 噛むと痛がる
  • 歯の揺れが強くなった
  • 発熱や顔の腫れがある

症状がなくても、永久歯への影響を確認するために定期的な経過観察を受けましょう。

年齢だけで治療方法は決まらない

子どもの治療方法は、年齢だけで一律に決まるものではありません。

次の要素を総合して判断します。

  • 乳歯の損傷状態
  • 歯根の吸収状態
  • 永久歯が生えるまでの期間
  • 痛みや感染の有無
  • 永久歯への影響
  • 子どもの協力度
  • 全身状態

感染があるにもかかわらず、年齢を理由に抗菌薬だけで長期間先延ばしすることは適切でない場合があります。必要に応じて、経過観察、根管治療、抜歯などから治療方法を選択します。

小学生から中学生頃の永久歯は、見た目には生えそろっていても、歯根がまだ完成していないことがあります。

根が未完成の永久歯は、神経をできるだけ保存することで、その後の歯根の成長が期待できます。

神経が露出している場合でも、状態によっては神経をすべて取らず、感染した部分だけを除去する治療を検討します。

早期に受診するほど治療の選択肢が広がる可能性があるため、生えたばかりの永久歯をぶつけた場合は早めに受診してください。

学校、幼稚園、保育園などの管理下でけがをした場合は、日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度の対象になることがあります。

まず、学校や園へ事故が起きたことを報告し、必要な書類や受診方法を確認してください。

制度の利用に備えて、次のものを保管しておきましょう。

  • 受傷した日時と場所
  • けがをした状況
  • 医療機関の領収書
  • 診療明細書
  • 学校や園から渡された書類
  • 歯科医院で記載を受ける医療等の状況の書類

給付の対象や手続きは加入状況、医療費、けがの内容などによって異なります。学校や園、日本スポーツ振興センターへ確認してください。日本スポーツ振興センターでは、学校管理下の災害による医療費給付や、一定の要件を満たす永久歯の欠損に対する見舞金制度を設けています。

痛みがなければ歯医者へ行かなくても大丈夫ですか?

痛みがなくても、歯の神経、歯根膜、歯根、歯槽骨が損傷している可能性があります。

特に強くぶつけた場合、歯の位置が変わった場合、出血があった場合は、見た目に異常がなくても歯科医院を受診してください。

歯をぶつけた当日のレントゲンですべて分かりますか?

すべての異常が分かるとは限りません。

細い歯根破折は撮影角度によって写らないことがあり、神経壊死や歯根吸収などは時間が経過してから現れることがあります。

そのため、初診時に異常がなくても経過観察が必要です。

歯をぶつけたあとの痛みは何日続きますか?

軽い打撲であれば、数日から1週間程度で落ち着くことがあります。

ただし、痛みが強くなる、1週間以上続く、噛めない、歯ぐきが腫れるなどの場合は、神経や歯根に問題が起きている可能性があります。

歯が黒くなったら神経は死んでいますか?

黒っぽい変色は神経壊死の可能性を示しますが、色だけで確定することはできません。

歯髄検査、症状、レントゲン所見などを総合して判断します。

変色した歯は自然に白く戻りますか?

一時的な充血や出血による変色であれば、色が薄くなることがあります。

神経壊死による灰色や黒色の変色は、自然には戻りにくく、根管治療後にウォーキングブリーチや被せ物などを検討することがあります。

グラグラした歯は元に戻りますか?

歯根や骨の損傷が軽ければ、固定や経過観察によって安定する可能性があります。

歯根破折や重度の脱臼を伴っている場合もあるため、指や舌で動かさず早めに受診してください。

抜けた永久歯は水道水に入れてもよいですか?

長時間、水道水に浸すことは避けてください。

牛乳、歯の保存液、生理食塩水が適しています。流水で汚れを落とす場合は、歯根をこすらず短時間で優しく洗い、すぐに保存液へ入れてください。

抜けた乳歯も戻したほうがよいですか?

乳歯は戻しません。

再植すると、下で発育している永久歯を傷つけるおそれがあります。

歯の外傷は健康保険を使えますか?

診察、レントゲン検査、固定、根管治療、コンポジットレジン修復など、多くの外傷治療は健康保険の対象になります。

ウォーキングブリーチやセラミック治療など、審美性を重視した一部の治療は保険適用外となる場合があります。

すべての事故を防ぐことはできませんが、外傷のリスクを減らすことは可能です。

スポーツ用マウスガードを使用する

ラグビー、サッカー、バスケットボール、格闘技など、接触や転倒の可能性があるスポーツでは、スポーツ用マウスガードが歯や口の周囲を守るために役立ちます。

市販品よりも、歯科医院で歯型を採って作製するマウスガードのほうが、適合性や装着感に配慮できます。

子どもの転倒事故を防ぐ

小さな子どもでは、次のような状況に注意しましょう。

  • 歯ブラシや箸をくわえたまま歩かせない
  • 濡れた床や段差を確認する
  • 椅子や家具から飛び降りないようにする
  • 自転車やキックボードではヘルメットを使用する
  • 車に乗るときは年齢や体格に合ったチャイルドシートを使用する

歯をぶつけた直後に痛みや欠けがなくても、歯の内部では神経や歯根膜、歯根、歯槽骨が損傷している可能性があります。

特に、歯が抜けた、ずれた、めり込んだ、グラグラする、噛み合わせがおかしい場合は、早急な対応が必要です。

永久歯が完全に抜けた場合は、歯根を触らず、乾燥させないように牛乳や保存液へ入れ、できるだけ早く歯科医院を受診してください。一方、抜けた乳歯は元の位置へ戻してはいけません。

また、歯の神経の壊死や歯根吸収などは、数か月から数年後に見つかることがあります。初回の治療後も、歯科医師が指定した時期に経過観察を受けることが大切です。

歯の外傷では、受傷直後の診断と適切な処置によって、大切な歯を残せる可能性が変わります。

当院では、歯の動揺や噛み合わせ、歯の神経の反応、レントゲン所見などを確認し、歯の状態に応じた治療をご提案します。

「転んで前歯をぶつけた」「子どもの乳歯がグラグラしている」「歯が欠けた」「見た目には問題がないが心配」という方は、できるだけ早めにご相談ください。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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