
「骨吸収(こつきゅうしゅう)」という言葉を聞いたことはありますか?
骨は常に古い骨が吸収され、新しい骨が作られる「骨代謝」を繰り返しています。そのため、骨吸収そのものは体の中で日常的に行われている正常な働きです。
一方、歯科では、歯周病や抜歯などによって歯を支える歯槽骨の量が減少する状態を説明する際に「骨吸収」という言葉が使われることがあります。
歯槽骨の吸収が進むと、歯がぐらついたり、歯を失う原因になったりするほか、インプラント治療を行う際に骨造成が必要になることもあります。
この記事では、歯周病や抜歯などに伴う歯槽骨の吸収について、原因・症状・治療法・予防法をわかりやすく解説します。
骨吸収とは

骨吸収とは、破骨細胞によって古い骨が分解・吸収される生理的な仕組みです。
健康な骨では、古い骨を吸収する「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」が繰り返され、骨の状態が維持されています。
しかし、歯周病による炎症や歯の喪失などによって骨の代謝バランスが変化すると、歯を支える歯槽骨の量が減少することがあります。
歯槽骨の吸収が進むと歯を支える組織が失われ、歯の動揺や歯の喪失につながることがあります。また、歯を失った部分の骨量が減少すると、将来インプラント治療を行う際に骨造成が必要となる場合があります。
なお、過大な咬合力は、それだけで歯周炎による骨吸収を起こす原因とはいえませんが、歯周組織の状態によっては歯への負担を増す要因となることがあります。
歯周病による骨吸収


矢印部には歯肉の炎症がみられ、X線画像では歯槽骨の吸収が確認できます。
歯周病による歯槽骨吸収が確認できるX線画像
歯槽骨の吸収を引き起こす代表的な原因の一つが歯周病です。
歯周病は、歯と歯ぐきの境目などに蓄積したプラーク(歯垢)中の細菌によって歯周組織に炎症が起こる病気です。
炎症が歯周組織の深い部分へ進むと、炎症に関わるさまざまな物質の作用によって破骨細胞の働きが促され、歯を支える歯槽骨の吸収が進むことがあります。
歯周炎が進行すると、歯ぐきの腫れや出血、歯周ポケットの深化、歯肉退縮などがみられることがあります。さらに歯槽骨の吸収が進むと、歯を支える力が低下して歯が動揺することもあります。
また、歯肉退縮を伴う場合には歯根の一部が露出し、歯が以前より長くなったように見えることがあります。
歯周病は初期には目立った自覚症状が現れないことも多いため、本人が気付かないまま進行している場合があります。
骨吸収を伴う歯周病でみられることがある症状
- 歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが腫れる
- 歯ぐきが下がる
- 歯が長くなったように見える
- 歯と歯の間の隙間が目立つ
- 歯がぐらつく
- 噛みにくくなる
- 口臭が気になる
さらに歯周組織の破壊が進むと、歯を維持することが難しくなり、抜歯が必要となる場合もあります。
抜歯後の骨吸収
歯を抜いた後は、抜歯した部分の歯槽骨にも変化が起こります。
歯槽骨は歯や歯根膜と密接に関係している組織です。抜歯によって歯を失うと、治癒過程の一環として骨のリモデリング(作り替え)が起こり、歯槽堤の幅や高さが徐々に減少します。
特に抜歯後の数か月は歯槽堤の形態が大きく変化しやすく、その後も程度には個人差があるものの、時間の経過とともに変化が続くことがあります。
抜歯後の骨吸収が進むと、
- 入れ歯の安定性に影響する
- ブリッジの形態や審美性に影響する
- インプラントに必要な骨の幅や高さが不足する
などの問題が生じることがあります。
また、多数の歯を失い、顎堤の吸収が大きく進んだ場合には、口元の支持が低下して顔貌に影響することもあります。
抜歯後は、残っている歯や骨の状態、噛み合わせなどを確認し、必要に応じて入れ歯・ブリッジ・インプラントなどの治療を検討することが大切です。
インプラントと骨吸収
インプラント治療は、顎の骨にインプラント体(人工歯根)を埋入し、その上に人工歯を装着する治療です。
インプラントを適切な位置に埋入するためには、骨の幅や高さ、骨質などを確認する必要があります。
歯を失った部位では、時間の経過とともに歯槽堤の吸収が進むことがあり、インプラントを予定する位置に十分な骨量が確保できない場合があります。
また、上顎臼歯部では上顎洞との位置関係など、部位によっても利用できる骨の高さが異なります。
骨量が不足している場合でも、状態によってはGBR(骨誘導再生法)などの骨造成を併用することで、インプラント治療を検討できる場合があります。
ただし、骨造成が必要かどうか、どの方法が適しているかは、骨欠損の状態や治療部位、全身状態などによって異なります。
骨吸収が進んだ部位へのインプラント治療
インプラントを予定する部位の骨量が不足している場合には、GBRなどの骨造成を行うことがあります。
GBRでは、骨補填材やメンブレン(膜)などを用いて、骨が形成されるためのスペースを確保し、インプラント治療に必要な骨量の増加を図ります。
骨造成の適応や治療方法は、骨の幅・高さ・欠損の形態などによって異なります。
また、治療結果には口腔内の状態だけでなく、喫煙や全身状態なども影響するため、事前に十分な診査・診断を行うことが重要です。
骨吸収は元に戻るのか
歯周病などによって失われた歯槽骨が、原因を取り除くだけで元の高さや形態まで自然に回復することは一般的ではありません。
ただし、歯周病による骨欠損では、欠損の形態や歯の状態など一定の条件を満たす場合に、歯周組織再生療法によって失われた歯周組織の再生を図れることがあります。
すべての骨欠損が再生療法の対象になるわけではなく、治療効果にも個人差があります。
そのため、骨吸収をできるだけ進行させないためには、原因を早期に発見して適切な治療を受けることが重要です。
骨吸収に対して行われる治療|歯周組織再生療法・骨造成
骨吸収に対する治療は、その原因によって異なります。
歯周病によって歯槽骨が失われている場合には、まず歯周病の原因となるプラークや歯石を除去し、炎症をコントロールすることが基本です。
そのうえで必要に応じて歯周外科治療や歯周組織再生療法を検討します。
一方、インプラント治療を予定している部位の骨量が不足している場合には、GBRなどの骨造成を行うことがあります。
リグロスによる歯周組織再生療法
リグロスは、一定の適応条件を満たす歯周炎患者に対して、保険診療で使用される歯周組織再生剤です。
有効成分であるbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)の作用によって、歯周病で失われた歯槽骨や歯根膜、セメント質などの歯周組織の再生を促します。
歯周外科手術の際に、歯周病によって生じた骨欠損部へ適用します。
ただし、すべての歯周病に使用できるわけではありません。骨欠損の形態や歯周組織の状態などを診査し、適応を判断します。
フラップ手術

歯周基本治療を行っても深い歯周ポケットが残る場合などには、フラップ手術を検討することがあります。
フラップ手術では歯肉を切開・剥離し、通常の歯周基本治療では器具が届きにくい歯根面や骨の状態を直接確認しながら処置を行います。
主に、
- 歯根面に付着した歯石や細菌性バイオフィルムの除去を図る
- 炎症性組織を除去する
- 必要に応じて骨の形態を整える
- 適応があれば歯周組織再生療法を併用する
などの処置を行います。
これにより、歯周ポケットの改善や歯周組織の炎症のコントロールを図ります。
ただし、フラップ手術を行えば失われた歯槽骨が必ず再生するわけではありません。骨の再生を目的とする場合には、骨欠損の状態に応じて歯周組織再生療法を併用することがあります。
GBR(骨誘導再生法)
GBR(Guided Bone Regeneration:骨誘導再生法)は、主にインプラント治療などで必要な骨量が不足している場合に行われる骨造成法の一つです。
骨補填材やメンブレンなどを使用して、骨が形成されるためのスペースを確保し、必要な骨量の増加を図ります。
骨の幅や高さが不足している場合でも、骨欠損の状態によってはGBRを併用することでインプラント治療が可能となることがあります。
ただし、GBRが適応できるかどうかや、どの程度の骨量増加が期待できるかは症例によって異なります。


骨吸収を予防するために
歯周病に伴う歯槽骨吸収を防ぐためには、歯周病の発症や進行を予防することが重要です。
日頃から次のような口腔ケアを心がけましょう。
- 毎日適切に歯を磨く
- デンタルフロスや歯間ブラシを使用する
- 定期的に歯科検診を受ける
- 必要に応じて歯石除去や専門的なクリーニングを受ける
- 喫煙している場合は禁煙を検討する
- 糖尿病などの全身疾患を適切に管理する
- 歯を失った場合は、欠損部の治療について歯科医師に相談する
特に歯周病は、自覚症状が少ないまま進行することがあります。
定期的に歯周ポケットや歯ぐきの状態などを確認し、必要に応じてX線検査を行うことで、歯周組織の変化を早期に発見できる可能性があります。
まとめ
骨吸収そのものは、古い骨を新しい骨へ作り替えるために必要な生理的な仕組みです。
一方、歯周病による炎症が続いたり、抜歯によって歯を失ったりすると、歯槽骨の量が減少することがあります。
歯周病による骨吸収が進行すると、歯を支える組織が失われ、歯のぐらつきや歯の喪失につながることがあります。また、歯を失った部位で骨吸収が進むと、インプラント治療を行う際に骨造成が必要になる場合があります。
失われた歯槽骨が自然に元の状態まで回復することは一般的ではありませんが、骨欠損の状態によっては、リグロスなどを用いた歯周組織再生療法や、インプラント治療に伴うGBRなどを検討できる場合があります。
歯ぐきからの出血や腫れ、歯肉退縮、歯のぐらつきなどが気になる場合は、歯周病が進行していないか歯科医院で確認してもらうことが大切です。
骨吸収をできるだけ進行させないためにも、日頃のセルフケアと定期的な歯科受診を続け、歯周病の早期発見・早期治療につなげましょう。
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歯ぐきの出血・腫れ・歯のぐらつきは、歯周病が進行しているサインの場合があります。早めに歯槽骨の状態を確認し、これ以上の進行を防ぐことが大切です。お口の健康を守りたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
筆者・院長

深沢 一
Hajime FUKASAWA
- 登山
- ヨガ
メッセージ
日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。
私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。





