大人の歯がグラグラする
大人の歯周組織の構造
健康な大人の歯は指で押してもグラグラしない
妊婦の歯科検診で最も多い主訴は”歯茎からの出血”と言われています。
妊娠する前と同じようにブラッシングしているのに、妊娠してから急に歯茎が腫れて出血しやすくなったと訴えるのです。これが歯周病の特殊な形態である妊娠性歯肉炎です。
妊娠すると女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の分泌が増加します。実は、女性ホルモンの増加と妊娠性歯肉炎とは非常に密接に関わっています。
歯周病で歯槽骨が破壊されるとグラグラが始まる
歯石や歯垢(プラーク)を付けたままにすると歯茎に炎症が起き、歯周病が重症化します。概ね、歯槽骨が3分の2以上溶け出すと歯のぐらぐらが始まります。
歯のぐらぐらを検査する動揺度チェックは、歯周病の進行度合いを判定する一つの指標になっています。
大人の歯がグラグラする原因
歯周病で歯がグラグラする
歯周病が進行し歯根を支えている歯槽骨が溶けると、歯のグラグラが始まります。
初期症状として歯は左右に動くようになり、歯周病の重症化で上下にプカプカ動くようになります。
ここまで症状が進行すると歯茎が腫れる(P急発)が起こったり、上下の歯が触れただけでも痛みが出るようになります。
歯ぎしりや食いしばりで歯がグラグラする
咬合性外傷とは上下の歯が強すぎる力で噛むことによって起こる歯周組織の障害です。外傷という文字から怪我をするというイメージを持つ方も少なくありませんが、歯周組織(歯根膜、歯槽骨など)に外傷性の病変が起こることを指します。
具体的には歯ぎしりや食いしばりが原因で歯根膜腔(写真)の拡大が起こり、歯がグラグラします。歯の動揺が強まると、噛んだ時の痛みも起こります。
一般的に歯槽骨の吸収を伴わないことが多く、歯ぎしりや食いしばりの治療により強い力がかからなくなれば、歯根膜腔の拡大は正常な状態に戻り、歯のグラグラや痛みも治ります。
歯根膜の拡大とは
歯根膜は歯根の表面にあるセメント質と歯槽骨間をシャーピー繊維で結ぶ厚さ0.2mm〜0.3mmの組織です。
歯根と歯槽骨の間のクッションの役割をする歯根膜ですが、咬合性外傷の不正な力が加わり続けるとシャーピー繊維が引っ張られて歯根膜の厚さが1ミリ程になり、レントゲン検査で明瞭に確認出来るほどに拡大します。
歯根破折で歯がグラグラする
歯根破折が起きやすいのは、前歯、犬歯、小臼歯などの単根管の歯が差し歯になった時です。
神経を取った歯根に土台を差し込み、差し歯が外れないように接着剤で止めます。
差し歯に強い力が加わると、神経を取った歯は脆くなっているため、歯根が縦方向に割れる事があります。
歯根が割れた時にピシットとした音を感じることもあります。割れた直後は少し歯が揺れる程度ですが、3日目辺りから歯のグラグラが増し、歯茎の腫れや咬合痛が起こってきます。
歯根破折して直ぐだと、一旦抜歯をして口腔外で割れた歯根を接着剤で付け、植え戻す方法がありますが、歯根破折してからの時間経過が長いと抜歯することになり、自然と治ることはありません。
差し歯が外れて歯がグラグラする
差し歯は歯にセメント(接着剤)で固定されています。長年使っていると接着が切れることがあります。
例えば、3本ブリッジの一本だけが接着が切れた場合、もう1本の歯で留まっているので、少し歯がグラグラしますが脱離はしません。この様な状態を長く続けると接着が切れた歯は、隙間からバイ菌が入り、虫歯になってしまいます。
また、1本の差し歯は脱離する前に少しグラグラする場合があります。少し動き始めたと感じたら、早めに歯科医院で再装着することをお薦めします。
ぐらぐらしたまま放置すると差し歯の中が深い虫歯になってしまい、使えなくなってしまうかもしれません。
歯をぶつけてグラグラする
前歯をぶつけるとその強さにより歯槽骨内で脱臼する不完歯全脱臼と歯列の外に飛び出してしまう完全脱臼に分れます。この時、歯根が破折してしまうと、抜歯を余儀なくされるケースがありますが、破折部位により歯を保存することが出来る場合もあります。
軽度の不完全脱臼の場合、歯が少しグラグラするくらいで1週間ほどすると正常の状態に治ります。
中等度から重度の不完全脱臼の場合には、両隣在歯に接着剤で固定し、歯根膜の回復(約1ヶ月)を待ちます。
完全脱臼しても、植え戻すことで通常に使えるようになることがあります。
悪い歯並びで原因で歯がグラグラする
歯周病を悪化させる要因として持って生まれた歯並びの悪さも関係しています。歯並びが悪いと歯と歯の間にプラーク(歯垢)が蓄積しやすく歯周病の発症につながりやすくなります。
また、前述した咬合性外傷を誘発しやすく、歯を支えている歯周組織はダメージを受け、歯周病がさらに悪化するという悪循環に陥ることになります。
矯正治療は見た目の改善だけを目的としたものではなく、機能的な問題の解決に繋がるということです。
子供の歯がグラグラする
乳歯の歯根吸収で歯がグラグラする
乳歯は大人の歯に交換しますが、その時期は各乳歯によって異なります。乳歯が自然脱落する条件は、その下から永久歯の萌出が始まることです。
乳歯の歯根部分に永久歯の歯冠が接触し始めると、その刺激により破歯細胞が出現し、乳歯の歯根は徐々に吸収(溶け出す)が始まります。
歯根吸収が3分の2以上進むと歯のぐらぐらが始まります。多くの場合、歯がグラグラしてから1ヶ月ほどで、自然に抜け落ちますが、歯根吸収が正常に行われない場合には、抜けそうで抜けない状態が2ヶ月以上続くこともあります。この様な時には食事中、噛んだ時に痛みが起こるかもしれません。
2ヶ月以上抜けるまでの期間が掛かるようなら永久歯が変な所から放出してしまう危険性が高まりますから歯医者で抜いてもらいましょう。
乳歯をぶつけて歯がグラグラ
子供はよく転ぶので前歯をぶつけ歯がグラグラになることがあります。痛みは転んだ直後にあるくらいで長続きはしません。
乳歯の場合、歯根吸収の度合いによって処置の方法が異なります。
レントゲンを撮り、歯根の吸収度合いを判断します。レントゲン診断の結果、もうすぐ永久歯が生え変わるようなら抜歯が選択肢になります。
一方、転んだ時の衝撃が弱く、歯のグラグラの程度が僅かの場合には、そのまま経過観察となることもあります。
永久歯への交換が半年以上あると判断した場合には、歯のぐらぐらを止めるために暫間固定を行います。強く衝撃を受けたと判断される場合には根管治療(神経を取る治療)を行うこともあります。
その後、永久歯への適切な交換がなされるように定期的な管理が必要となります。
乳歯を強く打つと後続永久歯(乳歯の次に生えてくる永久歯)にホワイトスポットが現れるリスクがあります。
グラグラした歯の治し方
暫間固定
暫間固定とは
暫間固定とはグラグラになった歯を一時的に治す方法です。ワイヤー(金属線)、接着性レジン、ワイヤーと接着性レジン、プラスティック製の仮歯を連結するなど様々な方法がありますが、文字通りあくまでも暫定的な仮の処置です。
暫間固定は、重度歯周病や咬合性外傷、歯に強い衝撃が加わった外傷時などに歯のグラグラを一時的に止めるために行います。
暫間固定の問題点
暫間固定は、見た目や舌触りなどが悪いばかりか、装置が邪魔をして口腔清掃が上手く出来ません。いつも以上に入念に歯磨きをする必要があります。
また、接着強度があまり強くないため、しばしば外れてしまうことがあります。
この様に不都合なこともありますが、一時的な処置なので治療の一環として受け止めていただければと思います。
暫間固定の実際
暫間固定を行うタイミング
歯周外科や歯槽骨の再生治療の後
歯と歯を何本か一緒に固定する『暫間固定』は歯がグラグラと動揺している時や歯周外科手術(GTR法やリグロス等)の後などに行います。歯周外科は一時的に歯周組織の炎症が起こるため、暫間固定によって安定化が図れます。
暫間固定はあくまでも暫く(しばらく)の間の処置です。状態が安定したら、歯が本来の機能を果たせるよう最終的な治療(冠を連結した補綴治療など)を行います。
歯周病の急性発作で歯の動揺が強くなった時
重度歯周病になると、いきなり歯茎が腫れることがあります。これを歯周病によるP急性発作と言います。こうなると上下の歯を少し噛み合わせだだけでも痛みが起こります。
そこで、歯周病の基本治療である歯石取りやルートプレーニングなどの処置の前に暫間固定を行うことで、組織の安定化を図ります。
暫間固定の効果で炎症も次第に治まり腫れも引いてきます。同時に抗生物質の投与も行われる場合もあります。
暫間固定の治療費
歯がグラグラした時の治療費 暫間固定は保険適用
内容 | 保険点数 | |
---|---|---|
暫間固定-簡単なもの | エナメルボンドシステムによるもの | 200点 |
暫間固定-困難なもの | エナメルボンドシステムによるもの | 500点 |
暫間固定除去 | 1装置につき | 30点 |
歯周病の治療を行う場合には、歯周病の治療費、検査料、指導料などがかかります。
暫間固定除去後の処置
セラミックの連続した人工歯冠
最終的な固定のために行うセラミックの連続した人工歯冠です。欠点は天然歯を削らなければならないことと歯と歯の間に歯間ブラシを通してしっかりと歯磨きの必要があることです。
歯の動揺が収まった場合
歯周基本治療(スケーリング・ルートプレーニング)や歯周外科などの治療で歯のグラグラが止まり固いものでも噛めるようになった場合には、暫間固定を除去して治療は終了します。
歯の動揺が収まら無い場合
重度歯周病で歯槽骨の吸収が激しい場合には、歯周治療行っても十分な咀嚼力が獲得出来ない場合があります。そんな時は写真のような連続した人工歯を被せ、動揺歯の固定を行うことがあります。
歯がグラグラのよくある質問
Q&A
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歯がグラグラする夢をしょっちゅう見ます。最近では歯が抜ける夢まで見ます。何かの暗示なのでしょうか?
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歯がぐらぐらして抜けてしまいそうな夢は、生活環境に大きな変化がある時や生活の不安がある時によく見ると言われています。例えば、妊娠時、初めての就職、進学などが挙げられます。
もし、歯が抜けそうになる夢をみてしまった時は、お金の使い方(収入面の不安)や問題の先送りなど、気になっていることを早めに解決することをお薦めします。
夜間低血糖症も恐怖の夢を見ることが多いと言われています。夜寝る前の糖質の摂取を控えると改善するかもしれません。
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私は19歳の大学生です。 歯並びが悪いのも関係しているのかもしれませんが、中学生のときに、一度歯茎が腫れて膿が出たことがありました。そのときに歯医者に行ったのですが、特にこれといった治療はされませんでした。(歯茎をマッサージするといいよと言われたくらいです。)
その後は気にしていなかったんですが、マッサージをしても歯茎が引き締まらないし、歯茎が退化しているように思うんです。関係ないかもしれませんが、上顎口蓋の肉も薄くなった気がするし、口蓋垂も位置が上に上がってきてる気がするんです。(気のせいでしょうか。)
また歯もほんの少しですがグラグラします。これも歯医者で言ったのですが、取り合ってくれませんでした。
今もたまに歯茎が腫れたりします。文章で書くと伝わりにくいんですが、このような状態でも治るんでしょうか?
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まだ19歳で若いので、歯周病の進行はそれほど起こっていいないものと思われます。膿みが出て歯肉が腫れるのは明らかに歯周病の初期の状態でしょう。 歯周病と口蓋垂との関係はありません。
歯がグラグラするのは歯を支えている歯槽骨が破壊されたときに初めて起こりますが、正常の場合でもほんのわずかに歯は動くものです。例えば、指で前歯を前後に揺らすと少し動きます。この現象は歯根膜という根っこの部分に50ミクロンほどの薄い膜があり、これが歯槽骨と結合しています。歯根膜は、歯にかる強い力を受け止めるクッションの役割があります。さらに、若い時は歯槽骨自体が柔らかく、歯の動きも高齢者に比べると、やや多めに動くと言えます。ですから、歯がぐらぐらする事に関しては生理的動揺の範囲と考え、心配はいらないでしょう。
もし心配であれば、レントゲンを撮って骨の破壊状態を確認するとよいでしょう。
マッサージをしても歯茎が引き締まらないとのことですが、マッサージをするより、しっかりとした歯磨きをする事が重要です。歯茎が腫れたり、出血したりするのは歯肉に炎症があるからです。炎症が起こる原因は歯の周りや歯周ポケット内に存在する細菌が原因です。従って、日頃から適確なブラッシングが実行出来ていれば症状は改善していくはずです。
江戸川区篠崎で歯周病予防・治療をご検討の方へ
ふかさわ歯科クリニック篠崎では、患者様の大切な歯を1本でも延命するため、軽度歯周病から重度歯周病に至るまで様々な対策を行い、歯周病予防をはじめ、早期発見・早期治療で症状の改善・維持を行い、抜歯回避に努めております。
歯がグラグラする主な原因は歯周病です。江戸川区篠崎で歯周病予防・歯周病治療をご希望の方は、ぜひ一度当院までお気軽にご相談下さい。
【動画】歯周病の手遅れの症状
筆者・院長
深沢 一
Hajime FULASAWA
- 登山
- ヨガ
メッセージ
日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。
私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。