近年、ココナッツオイルやMCTオイルと認知機能との関係が注目されています。特にアルツハイマー型認知症では、脳のブドウ糖代謝が低下することが知られており、ブドウ糖とは異なるエネルギー源として利用できる「ケトン体」の研究が進められています。

ただし、ココナッツオイルやMCTオイルを摂取することで認知症を予防・改善できるという十分な科学的根拠は、現時点では確立されていません。

この記事では、ココナッツオイルやMCTオイル、ケトン体と認知症との関係について、現在わかっていることを解説します。

脳は通常、主にブドウ糖をエネルギー源として活動しています。

アルツハイマー型認知症では、脳の一部でブドウ糖代謝が低下することが知られています。また、軽度認知障害(MCI)の段階から、脳の特定領域でブドウ糖代謝の低下が認められる場合があります。

PET検査は、このような脳内のブドウ糖代謝の変化を調べる検査の一つです。

ただし、「ブドウ糖が脳に取り込まれなくなる」「神経細胞が慢性的なエネルギー不足になる」と単純に説明できるものではありません。

こうした脳のエネルギー代謝の変化を背景として、ブドウ糖以外のエネルギー源となる「ケトン体」が研究されています。

脳のブドウ糖の取り込み

正常
正常

正常の脳ではグルコース(ブドウ糖)の取り込みを示す赤から濃い赤の部分が広範囲に広がっています。

軽度認知障害
軽度認知障害

軽度認知障害の脳では赤い部分が半分以下に減少しています。

アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症の脳では更に赤い部分が減少しています。グルコース(ブドウ糖)が脳に取り込まれていない為、活動エネルギーが不足している状態を示しています。

ケトン体とは?

ケトン体は、脂肪酸が肝臓で代謝される際に作られる物質です。

主に、

  • β-ヒドロキシ酪酸
  • アセト酢酸
  • アセトン

があります。

このうちβ-ヒドロキシ酪酸やアセト酢酸は脳でもエネルギー源として利用できます。

アルツハイマー型認知症では脳のブドウ糖代謝が低下する一方、ケトン体を利用する能力が比較的保たれている可能性が報告されています。

そのため、ケトン体を脳の代替エネルギー源として利用する方法が、認知機能にどのような影響を与えるのか研究されています。

ただし、ケトン体を増やせばアルツハイマー型認知症を予防・改善できると証明されているわけではありません。

脳のブドウ糖代謝をPET検査で確認

FDG-PETなどの検査では、脳のブドウ糖代謝の状態を画像として評価できます。

正常

正常な脳では、さまざまな領域でブドウ糖代謝が認められます。

軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害では、認知機能が正常な人と比較して、脳の一部でブドウ糖代謝の低下がみられる場合があります。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症では、側頭葉や頭頂葉など特定の領域を中心にブドウ糖代謝の低下が認められることがあります。

ただし、画像の色だけから認知症の程度を判断できるわけではありません。PET検査の結果は、症状や認知機能検査、MRIなど他の検査結果とあわせて評価されます。

中鎖脂肪酸を含んでいる

ココナッツオイルには、中鎖脂肪酸に分類される脂肪酸が含まれています。

中鎖脂肪酸は一般的な食用油に多い長鎖脂肪酸とは代謝経路が異なり、比較的速やかに吸収・代謝される特徴があります。

中鎖脂肪酸を摂取するとケトン体の血中濃度が上昇することがあるため、MCTやケトン体が脳のエネルギー代謝や認知機能に与える影響について研究が行われています。

ただし、ココナッツオイルはMCTオイルと同じものではありません。

ココナッツオイルにはラウリン酸などが多く含まれており、一般的なMCTオイルとは脂肪酸の組成や代謝特性が異なります。

認知機能への影響について研究されている

MCTの摂取によって血中ケトン体が増加し、一部の研究では認知機能に一定の変化がみられたとの報告があります。

しかし、研究規模や対象者、摂取量、評価方法などには違いがあり、現時点でMCTやココナッツオイルをアルツハイマー型認知症の治療法として推奨できるだけの十分なエビデンスが確立しているわけではありません。

ココナッツオイルとアルツハイマー病との関係が広く知られるきっかけの一つとなったのが、米国の医師メアリー・ニューポート氏による夫の症例です。

ニューポート氏は、若年発症アルツハイマー病と診断された夫の食事にココナッツオイルなどを取り入れ、その後、時計描画などに変化がみられたと報告しています。

認知機能改善の報告

ココナッツオイルを飲み始める前日
ココナッツオイルを飲む前日

時計の絵を描いてとお願いした結果、1という数字が書かれていますが、それ以外は小さな丸が数個描かれています。

2週間後
2週間後

大きな円を描き、文字盤の様な形になってきました。更に、時刻を示す数字が描かれています。

37日後
37日後

文字盤に描かれた時刻の数字の位置までほぼ正確に描けるようになってきました。 最初の状態とは格段の違いです。

摂取開始前

時計描画では、文字盤として成立する図を十分に描けない状態だったとされています。

2週間後

円や数字が描かれるなど、摂取開始前と比較して変化がみられたと報告されています。

37日後

さらに時計らしい図が描かれるようになったと紹介されています。

ただし、これは一人の患者について報告された事例であり、ココナッツオイルによって認知機能が改善したことを科学的に証明するものではありません。

認知機能は体調や治療、検査への慣れなど、さまざまな要因によって変化する可能性があります。

そのため、この症例だけを根拠として「ココナッツオイルがアルツハイマー病を改善する」と判断することはできません。

ココナッツオイルとMCTオイルは同じものではありません。

項目ココナッツオイルMCTオイル
脂肪酸ラウリン酸などを多く含む主にカプリル酸(C8)・カプリン酸(C10)
味・香り製品によってココナッツ特有の風味がある比較的クセが少ない
ケトン体産生MCTオイルとは異なる比較的ケトン体を産生しやすい
用途調理などにも利用される飲み物や料理などに加えて使用される

「ココナッツオイルは中鎖脂肪酸約60%、MCTオイルは中鎖脂肪酸100%」という比較だけでは、両者の違いを正確に説明できない場合があります。

特にココナッツオイルに多く含まれるラウリン酸(C12)は、一般的なMCTオイルに使用されるC8・C10とは代謝特性が異なります。

ケトン体の産生を目的として研究されているのは、C8やC10を主体としたMCTであることが多いため、ココナッツオイルとMCTオイルを同じものとして扱わないことが重要です。

MCTオイル
MCTオイル

少量から試す

ココナッツオイルやMCTオイルを一度に多く摂取すると、

  • 下痢
  • 腹痛
  • 吐き気
  • 胃部不快感

などの消化器症状が起こることがあります。

特にMCTオイルは、一度に多量を摂取すると消化器症状が出やすいため注意が必要です。

使用する場合は製品に記載された摂取方法を確認し、少量から試すのがよいでしょう。

持病がある方や治療中の方、食事療法を受けている方は、自己判断で大量に摂取せず、医師や管理栄養士などに相談してください。

コーヒーに入れる必要はない

ココナッツオイルやMCTオイルをコーヒーに加えて飲む方法が紹介されることがありますが、認知症予防のためにコーヒーに入れて摂取する方法が最も優れているという十分な医学的根拠はありません。

また、

「温かいコーヒーで乳化すると吸収効率が高まる」

「空腹時に飲めば認知機能が向上する」

「カフェインとの相乗効果によって認知症予防効果が高まる」

といった効果も、一般的な摂取方法として断定できるものではありません。

コーヒーに混ぜる方法は、あくまで摂取方法の一つと考えましょう。

摂り過ぎに注意する

ココナッツオイルやMCTオイルは脂質であり、1gあたり約9kcalのエネルギーがあります。

健康に良い可能性があるからといって、通常の食事に大量に追加するとエネルギー摂取量が増える可能性があります。

また、ココナッツオイルは飽和脂肪酸を多く含むため、認知症予防だけを目的として大量に摂取することはおすすめできません。

食事全体のバランスを考えて利用することが大切です。

現時点では、ココナッツオイルやMCTオイルについて、

「摂取すれば認知症を予防できる」
「アルツハイマー型認知症を改善・治療できる」

と断定できる十分な科学的根拠はありません。

MCTやケトン体と脳のエネルギー代謝については研究が続けられており、認知機能への影響を示唆する報告もあります。

しかし、ココナッツオイルやMCTオイルは、医療機関で行われる認知症の診断や治療に代わるものではありません。

認知機能の低下が気になる場合は、食品やサプリメントだけで対応しようとせず、医療機関へ相談することが大切です。

認知症予防では、特定の食品だけを積極的に摂取するよりも、食生活全体を整えることが重要です。

青魚などにはDHA・EPAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸が含まれています。

魚を含むバランスの良い食生活は健康維持に役立ちますが、DHA・EPAを摂取すれば認知症を予防できると単純に考えることはできません。

オリーブオイル

オリーブオイルは地中海食を構成する食品の一つです。

地中海食などの健康的な食事パターンと認知機能低下や認知症リスクとの関連について研究が行われています。

ただし、オリーブオイル単独に認知症を予防する効果が確立されているわけではありません。

野菜・果物

野菜や果物には、ビタミン、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールなどさまざまな成分が含まれています。

特定の成分だけに期待するのではなく、魚、野菜、果物、豆類、全粒穀物などを組み合わせ、食事全体のバランスを整えることが大切です。

アルツハイマー型認知症では、脳の一部でブドウ糖代謝が低下することが知られています。そのため、脳が利用できる別のエネルギー源としてケトン体が注目され、MCTなどを用いた研究が行われています。

一部の研究では認知機能への影響が示唆されていますが、ココナッツオイルやMCTオイルによって認知症を予防・改善できるという十分な科学的根拠は、現時点では確立されていません。

また、ココナッツオイルとMCTオイルは脂肪酸の組成や代謝特性が異なるため、同じものとして考えないことも重要です。

認知症予防では特定の食品だけに頼るのではなく、バランスの良い食生活、適度な運動、社会参加、生活習慣病の管理など、生活習慣全体を整えることが大切です。

ココナッツオイルやMCTオイルを取り入れる場合も、認知症の「治療」と考えるのではなく、食生活の一部として適量を利用しましょう。

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筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

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