近年、日本では健康意識の高まりや受動喫煙防止対策などにより、喫煙率は長期的に低下しています。しかし、現在も喫煙による健康への影響は重要な課題です。

タバコの影響は肺だけにとどまりません。心臓や血管、脳、口腔など全身のさまざまな組織や疾患との関連が知られています。また、喫煙者本人だけでなく、周囲の人がタバコの煙にさらされる受動喫煙も問題となります。

歯科領域では、喫煙は歯周病の発症・進行や治療後の経過、口腔がんなどと関連する重要なリスク因子です。

この記事では、タバコに含まれる主な有害物質から、全身・口腔への影響、受動喫煙、加熱式タバコ、禁煙によって期待できる健康上のメリットまで解説します。

タバコの煙には、数千種類の化学物質が含まれ、その中には人体に有害な物質や発がん性が確認されている物質も多数存在します。

なかでも、健康への影響を考えるうえでよく知られているのが、ニコチン・タール・一酸化炭素です。

ニコチン

ニコチンは、タバコへの依存を形成する主要な物質です。

喫煙によってニコチンが体内に取り込まれると脳に作用し、神経伝達物質の放出などを介して依存が形成されます。そのため、「やめたいと思っているのにやめられない」という状態になることがあります。

また、ニコチンには交感神経を刺激する作用があり、心拍数や血圧などに影響を及ぼします。

喫煙そのものは、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患の重要なリスク因子として知られています。

喫煙による血流への影響

喫煙すると、ニコチンなどの作用によって末梢血管が収縮し、血流に影響が生じることがあります。

以下の写真は、タバコ煙への曝露による血管の変化を示した資料です。

ウサギの耳の血流変化

以下写真は、ウサギにタバコの煙を鼻から2秒間吸わせた時の耳の細い血管の変化の様子です。

喫煙前
喫煙前 

たばこを吸う前は、十分な血液が血管の中を流れています。

喫煙数秒後
喫煙数秒後

ニコチンの血管収縮作用により、血管が細くなり血流が減少しているのが認められます。

喫煙数十秒後
喫煙数十秒後

血管が強く収縮して血液の流れが止まっています。

喫煙前

喫煙前には、耳の細い血管に血液が流れている様子が確認できます。

喫煙後

タバコ煙への曝露後には、血管が収縮し、血流が低下している様子が確認できます。

※動物実験の画像は、人における影響をそのまま示すものではありません。喫煙による血管への影響を理解するための参考資料として掲載しています。

出典:国立保健医療科学院関連資料

タール

タールとは、タバコ煙に含まれる粒子状成分の総称です。

タバコ煙にはさまざまな発がん性物質が含まれており、喫煙は肺がんをはじめ、喉頭がん、咽頭がん、口腔がんなど、複数のがんの発症リスク上昇と関連しています。

呼吸器への影響(肺気腫・COPD・結核)

タバコの煙は直接肺に吸い込まれるため、呼吸器系へのダメージは特に深刻です。

肺気腫のレントゲン写真
肺気腫のレントゲン写真

左は喫煙していない人の肺の構造。右は喫煙によって肺構造が破壊さ、肺気腫(COPD)になった状態です。

肺気腫/COPD
肺気腫/COPD

左は軽症の肺気腫で、右は重症の肺気腫です。この肺で肺炎に罹れば命に関わります。

一酸化炭素

紙巻きタバコの燃焼によって発生する一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと結合し、酸素を運ぶ能力を低下させます。

そのため、全身への酸素供給に影響を与え、心臓や血管にも負担をかける可能性があります。

喫煙は、がんだけでなく、循環器疾患や呼吸器疾患など多くの病気と関連しています。

長期間喫煙を続けるほど健康への影響が蓄積する可能性がありますが、少量の喫煙であれば安全というわけでもありません。

心臓・血管への影響

タバコの煙に含まれるさまざまな有害物質は、血管内皮の機能や血液凝固、炎症などに影響し、動脈硬化の進行に関与すると考えられています。

その結果、

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 脳梗塞
  • 脳出血などの脳卒中

といった循環器疾患のリスクが高くなります。

喫煙本数が少なければリスクがなくなるわけではないため、「少ししか吸わないから大丈夫」と考えるのは適切ではありません。

呼吸器への影響

タバコの煙が直接入り込む呼吸器は、喫煙の影響を強く受ける部位の一つです。

代表的な病気が**COPD(慢性閉塞性肺疾患)**です。

COPDでは、肺や気道に慢性的な炎症が起こり、肺胞の破壊や気道の狭窄などによって呼吸機能が徐々に低下します。

主な症状として、

  • 階段や坂道での息切れ
  • 慢性的な咳
  • 呼吸のしにくさ

などがあります。

進行すると日常生活にも支障をきたし、重症例では在宅酸素療法が必要になることがあります。

また、喫煙は呼吸器感染症や結核などのリスクとも関連することが知られています。

歯科領域でも、喫煙は重要なリスク因子です。

主に、

  • 歯周病の発症・進行
  • 歯ぐきの血流への影響
  • 歯や補綴物への着色
  • 口臭
  • 口腔がんのリスク上昇
  • インプラント治療後の経過への悪影響

などとの関連が知られています。

喫煙と歯周病

特に注意したいのが歯周病です。

喫煙者では非喫煙者と比較して歯周病が進行しやすく、歯周病治療に対する反応も低下する傾向があります。

さらに、喫煙によって歯ぐきの血流や免疫反応などが変化すると、歯周病が進行していても歯ぐきの腫れや出血といった炎症のサインが目立ちにくくなる場合があります。

「歯ぐきから血が出ないから歯周病ではない」とは限らない点に注意が必要です。

インプラントへの影響

喫煙はインプラント治療にも影響します。

インプラント周囲の組織の治癒や長期的な安定性に悪影響を与える可能性があり、インプラント周囲炎やインプラント喪失のリスク因子の一つとされています。

インプラント治療を予定している方には、治療前後だけでなく、長期的な禁煙をおすすめする場合があります。

喫煙は口腔がんの重要なリスク因子の一つです。

タバコ煙に含まれる発がん性物質が長期間にわたって口腔粘膜に接触することで、細胞の遺伝子に損傷が蓄積し、がんの発生に関与すると考えられています。

特に飲酒習慣が加わると、口腔がんや咽頭がんなどのリスクがさらに高くなることが知られています。

口内炎のような症状が長期間治らない、粘膜に硬い部分がある、赤色や白色の変化が続くといった場合には、自己判断せず歯科医院や口腔外科を受診しましょう。

喫煙は皮膚の健康にも影響します。

タバコ煙による酸化ストレスや血流への影響などによって、皮膚の老化を促進する可能性があります。

長期間の喫煙は、

  • シワ
  • 皮膚の弾力低下
  • くすみ
  • 肌の老化

などと関連することが報告されています。

こうした喫煙者に特徴的とされる顔貌を「スモーカーズフェイス」と表現することもあります。

受動喫煙とは、本人が喫煙していなくても、周囲のタバコ煙にさらされることです。

受動喫煙にも安全といえる曝露量があるわけではなく、健康への影響が問題となります。

受動喫煙は、

  • 肺がん
  • 虚血性心疾患
  • 脳卒中
  • 小児の呼吸器疾患

などのリスク上昇と関連しています。

特に子どもや妊婦などが生活する環境では、タバコ煙への曝露を避けることが重要です。

三次喫煙とは、タバコ煙由来の化学物質が、喫煙後も衣類、家具、壁、カーテン、車内などに残留する現象を指します。

これらの物質は室内環境に長く残ることがあり、再び空気中に放出されたり、ほこりなどを介して体内に取り込まれたりする可能性があります。

特に床や家具に触れ、その手を口に入れることの多い乳幼児では、曝露が懸念されています。

三次喫煙による長期的な健康影響については、現在も研究が続けられています。

アイコスなどの加熱式タバコは、タバコ葉を燃焼させずに加熱して使用します。

紙巻きタバコとは発生する化学物質の種類や量が異なりますが、加熱式タバコだから安全というわけではありません。

加熱式タバコのエアロゾルにも、

  • ニコチン
  • 発がん性物質
  • その他の有害化学物質

などが含まれています。

一部の有害物質は紙巻きタバコより少ない場合がありますが、それだけで健康被害が同じ割合で減少するとは判断できません。

また、比較的新しい製品であるため、長期間使用した場合の健康影響については、紙巻きタバコほど十分なデータが蓄積されていません。

周囲への曝露についても「ゼロ」になるわけではありません。

加熱式タバコ・アイコスの有害性9割減は真実?

長期的な研究では、喫煙を続ける人は、生涯喫煙しない人と比較して平均寿命が短くなることが報告されています。

研究によって対象や結果は異なりますが、長期間喫煙を続けた人では、寿命が約10年短くなる可能性を示した大規模研究もあります。

また、「1日数本なら問題ない」とは言えません。

少量の喫煙であっても、心血管疾患やがんなどのリスク上昇との関連が報告されています。

本数を減らすことだけを最終目標にするのではなく、健康への影響を減らすためには禁煙を目指すことが重要です。

長年タバコを吸っていた場合でも、禁煙することには大きな意味があります。

禁煙後は時間の経過とともに、循環器疾患や呼吸器疾患、がんなどのリスクが徐々に低下していくことが知られています。

また、

  • 咳や痰などの呼吸器症状の改善
  • 心血管疾患リスクの低下
  • 歯周病治療への反応の改善
  • 口臭や着色の改善
  • 家族の受動喫煙防止
  • タバコ購入費の節約

など、さまざまなメリットが期待できます。

禁煙による効果の現れ方には個人差がありますが、年齢にかかわらず禁煙を始めることは健康上のメリットにつながります。

タバコをやめられない背景には、ニコチン依存が関係しています。

そのため、禁煙が難しいからといって単純に「意志が弱い」と考えるのは適切ではありません。

禁煙を希望しているものの自力では難しい場合には、医療機関に相談する方法があります。

禁煙治療を利用する

禁煙治療では、ニコチン依存の程度や喫煙状況、健康状態などを確認したうえで、禁煙に向けた支援が行われます。

条件を満たした場合には、公的医療保険による禁煙治療を受けられることがあります。

治療内容や使用できる禁煙補助薬、保険適用の条件などは、医療機関や時期によって異なる場合があります。

禁煙を希望する場合には、禁煙治療を行っている医療機関に最新の診療状況を確認してください。

禁煙を続けるための工夫

医療機関での治療だけでなく、

  • 禁煙開始日を決める
  • タバコや灰皿を身の回りからなくす
  • 喫煙したくなる場面を把握する
  • 家族や周囲の人に禁煙を伝える
  • 禁煙記録をつける

といった方法も、禁煙を継続するための助けになります。

禁煙支援アプリなどを活用する方法もあります。

タバコの健康への影響は、肺だけではありません。

喫煙は、

  • がん
  • 心筋梗塞・脳卒中などの循環器疾患
  • COPDなどの呼吸器疾患
  • 歯周病
  • 口腔がん
  • インプラント治療後の経過への悪影響

など、全身および口腔のさまざまな問題と関連しています。

さらに、受動喫煙によって周囲の人の健康にも影響を与えます。加熱式タバコについても、有害物質への曝露がなくなるわけではなく、「安全なタバコ」と考えることはできません。

歯科の立場からも、禁煙は歯周病の予防・治療や口腔の健康を守るうえで非常に重要です。

長期間喫煙してきた方でも、禁煙を始めることには健康上のメリットがあります。

自力での禁煙が難しい場合には、一人で抱え込まず、禁煙治療を行っている医療機関などの支援を利用することも検討しましょう。

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喫煙は歯周病の進行や治療後の経過、口臭・着色など、お口の健康にも影響します。現在の歯ぐきや歯の状態を詳しく確認し、将来のお口の健康を守るためのケアをご提案します。

お口や全身の健康を守りたい方は、定期的な歯科検診とともに禁煙についても考えてみませんか。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

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  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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