【動画 31秒】根分岐部病変とは?重度歯周病による歯槽骨吸収とその治療法

1.根分岐部病変とは?

根分岐部病変とは、歯の根っこが複数に分かれる部分(根分岐部)において、歯槽が破壊されることで発生する病変です。 特に奥歯で多く見受けられます。健康な歯は歯槽骨しっかりと支えられていますが、歯周病のため炎症が広がって骨が吸収され、歯が揺れる、咀嚼時に痛みを感じるような症状が現れます。

根分岐部病変
根分岐部病変

大臼歯の根分岐部まで歯槽骨が破壊された状態

イラストは歯周病の重症化により大臼歯の歯根間まで歯槽骨の吸収が進んだ状態を表しています。

一般的に上顎大臼歯は3根、下顎大臼歯は2根~3根の歯根を持っています。それらの歯根の根分岐部まで病状が進むと治療が困難なだけでなく、セルフケアが難しいため予後不良となり易いです。

2.根分岐部病変

リンデ(Lindhe)の分類

根分岐部病変を1〜3度の3段階に分類したものです。

1度

1度

水平的にプローブを挿入した時、根分岐部病変が歯の幅径の 1/3 以内のもの。

リンデ(Lindhe)の分類 1度

2度

2度

水平的にプローブを挿入した時、根分岐部病変が歯の幅径の 1/3 以上で根分岐部を貫通しないもの。

リンデ(Lindhe)の分類 2度

3度

3度

水平的にプローブを挿入した時、根分岐部病変部を貫通するもの。

リンデ(Lindhe)の分類 3度

Glickmanの分類

根分岐部病変の分類は「グリックマンの分類」と呼ばれる国際基準に基づいて行われることもあります。病変の進行度によってタイプ1からタイプ4まで分けられます。 この分類は、治療方針や予判断後の参考になります。定期的な歯科検診を受けることが、早期発見と治療につながります。


3.根分岐部病変の主な原因

根分岐部病変の主な原因歯周病との関係

歯周病との関係

根分岐部病変の最大の原因は、歯周病の進行です。 歯周病菌によって歯肉に炎症が起こり、歯を支える骨(歯槽骨骨)が溶けてしまうことで発生します。正しい口腔ケアができない場合や、プラークや歯石があった際に悪化しやすい病気です。

口腔内ケアの不足

正しい口腔ケアが行われていない場合、歯と歯茎の間にプラーク(細菌の塊)がたまり、それが硬化して歯石になります。このプラークや歯石が放置されると歯肉に炎症を起こしし、歯周病が進行します。歯周病が悪化すると歯槽骨が吸収され、根の分岐部が露出しやすくなります。

特に奥歯は構造が複雑で汚れが溜まりやすいため、ブラッシングやフロスが考えられ、根分岐部病変が発生するリスクがあります。

喫煙の影響

喫煙は歯周病や根分岐部病変のリスクを大幅に高めます。煙草に含まれるニコチンや有害物質は、歯肉への血流を減少させ、免疫力を低下させます。その結果、炎症が治りにくくなり、細菌が歯周ポケット内で増殖しやすくなります。

また、喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病が進行しやすいだけでなく、治療後の回復も難しいことが多いです。 さらに、喫煙によるヤニや汚れが歯面に付着すると、プラークの形成を助長します。

ストレスの影響

ストレスは体全体の免疫機能を低下させるため、歯周病や根分岐部病変のリスクが高まります。 特にストレスが慢性化すると、口腔内の唾液量が減少し、唾液の抗菌作用が弱まります。その結果、口腔内の細菌が繁殖しやすくなります。

さらに、ストレスが強いと歯ぎしりや食いしばりのような行動が多くなります。 これにより、歯や根の分岐部に過剰な負担がかかり、病変の進行を助ける長くなる可能性があります。

咬合力の過剰

過剰な噛み合力(噛む力)が挙げられます。 奥歯に強い力がかかることで根分岐部に負担がかかり、骨の破壊が進む可能性があります。

遺伝的要因

遺伝的関与は、歯周病や根分岐部病変の発生リスクに影響を与えることが知られています。特に次の遺伝的特性が関与します。

免疫応答の特性
一部の人は遺伝的に炎症に対する免疫応答が過剰で、歯周組織が破壊されやすい傾向があります。このような特性を持つ人は、歯周病や根分岐部病変のリスクがありますがございます。

骨代謝の遺伝的特性
骨の形成や吸収に関連する遺伝子の異常がある場合、歯槽骨の再生能力が低下し、病変の進行を顕著にすることが重大である。

全身疾患

いくつかの全身疾患は、歯周病や根分岐部病変のリスクが直接的または間接的に高くなります。以下は代表的な例です。

  1. 糖尿病
    糖尿病患者は血糖値が高いため、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。 歯周病や分岐部病変が進行しやすいだけでなく、治療後の回復も遅れることが多いですまた、歯周病は糖尿病の血糖コントロールを悪化させる相互作用もあります。
  2. 骨粗しょう症
    骨粗しょう症は骨密度が低下し、歯槽骨を含む全身の骨が柔らかくなります。 これにより、歯槽骨が吸収されやすくなり、根分岐部病変が発生しやすくなります。
  3. 免疫不全症
    HIV感染症や自己免疫疾患など、免疫機能が低下する疾患は、歯周病菌に対する防御力を低下させ、病変のリスクを高めます。
  4. 心血管疾患
    歯周病や根分岐部病変の炎症が全身に影響を与えることがあり、動脈硬化や心臓病のリスクを増加させることが示唆されています。

4.根分岐部病変の症状

初期段階での症状

根分岐部病変の初期段階では、明らかな症状が現れにくいのが特徴です。歯肉が少し腫れる、ブラッシング時に出血するなどの軽い症状しか見られないため、気づかないまま進行してしまうことがよくあります。

進行段階の症状

しかし、病変が進むにつれて、歯が浮いたような感覚が生じ、咀嚼時の痛みや不快感が増します。重度の状態になると、歯がぐらつくようになり、最悪の場合、歯が脱落することもあります。また、感染が進行すると膿がたまる場合もあり、歯茎に腫れや痛みが現れることがあります。このような症状がある場合、早急に歯科を受診することが重要です。

根分岐部病変の診断方法

根分岐部病変の診断方法

視診とプロービング検査

視診とプロービング検査が基本となります。歯科医師は専用の器具を使い、歯周ポケットの深さや出血の有無を確認します。

歯科用CTやエックス線による診断

歯科用CTやエックス線写真も重要な診断ツールです。これらの画像診断によって、根分岐部の状態や歯槽骨の吸収程度が詳細にわかります。

診断時の注意すべきポイント

診断時には、患者の咬み合わせや生活習慣の聞き取りも行われます。特に喫煙歴や糖尿病などの全身疾患がある場合は、病変の進行に影響を与えるため、総合的な視点で診断を進めます。


根分岐部病変の治療法

初期治療

根分岐部病変の治療は、病変の進行度によって異なります。初期段階ではスケーリングやルートプレーニングといった非外科的治療が行われ、プラークや歯石を徹底的に除去します。この段階で適切なケアを行うことで、症状の進行を抑えることが可能です。

外科的治療法

進行した場合は、外科的治療が必要となります。GTR法(組織再生誘導法)やトンネリング手術などが代表的な治療法で、失われた骨や組織の再生を目指します。

リンデの分類1度〜2度

リンデの分類1度〜2度
リンデの分類1度〜2度
歯周外科による治療例

下顎6番のデンタルレントゲン画像です。歯槽骨の水平的吸収が進んでいますが、根分岐部には骨があるように写っています。

ただし、湾曲したプローブを挿入してみると頬側からはかなり入ります。舌側からはほぼ入らない状態でした。

フラップ手術

step

頬側の歯茎切開

頬側の歯肉縁に沿って歯茎切開し、粘膜骨膜弁を剥離します。頬側(頬っぺた側)から水平的にプローブを挿入すると、根分岐部病変が歯の幅径の 2/3 入りました。

目視下で不良肉芽組織や歯石を徹底的に除去します。今回は使用しませんでしたが、リグロスという歯周組織再生剤(保険適用)を根分岐部病変に填入する治療も考えられます。

頬側の歯茎切開

step

舌側の歯茎切開

舌側の歯肉縁に沿って歯茎切開し、粘膜骨膜弁を剥離します。舌側から水平的にプローブを挿入しても骨があるため入りません。

リンデ(Lindhe)の分類では2度に相当します。

舌側の歯茎切開

step

縫合

歯茎を縫合してフラップ手術は終了です。ここまで保険適用の治療です。

縫合

GTR法(歯周組織再生療法)

歯槽骨が無くなった根分岐部に血液から作ったCGFと人工歯を混ぜたものを填入し、吸収性膜(メンブレン)で覆うGTR法(歯周組織再生療法)という治療法も選択肢となりますが、保険適用外です。

リンデの分類3度 症例1

トンネリング
トンネリング
トンネリング(トンネル形成術)

リンデの分類3度の症例にフラップ手術を行うと歯茎は下がります。分岐部病変部まで下がらなければ、歯肉切開をして強制的に歯肉を下げ分岐部病変を露出させます。

この治療をトンネリング(トンネル形成術)と言います。

歯間ブラシでメインテナンス
歯間ブラシでメインテナンス
歯間ブラシでメインテナンス

トンネルないの清掃は歯間ブラシを使います。奥歯なので歯間ブラシの扱いに慣れるまで時間がかかる患者さんもいます。

どうしてもうまくいかない場合はウォーターピックを使用すると良いでしょう。

リンデの分類3度 症例2

リンデの分類3度 症例2
リンデの分類3度 症例2
歯根分割(ルートセパレーション)

下顎6番はプローブを挿入した時、根分岐部病変部を貫通しました。リンデの分類3度と言うことが出来ます。

この様な症例は歯茎再生治療の適応ではありません。また、トンネリングを行ても歯間ブラシを通す隙間が不足しています。

また、フラップ手術を行っても根分岐部に歯周病菌の増殖が起こり病状は悪化します。根分岐部のブラッシングが出来ないためです。

そこで、歯根を二つに分割してそれぞれにコア(歯の土台)を建て、二つの金属冠で治療しました。この治療法をルートセパレーションと言います。

適応条件
  • 神経が無い歯であること。
  • 歯根が開いていること。
下顎6番に2歯分の金属冠を装着
下顎6番に2歯分の金属冠を装着
歯間ブラシでメインテナンス

デンタルX線写真で白く写った所に金属冠が入っています。1歯であった歯が2歯の様になっています。

歯の間に歯間ブラシを通せる隙間が出来ました。これで、セルフケアが出来るようになったので良好な予後が期待できます。

最終手段としての抜歯

最終手段として、歯を抜歯し、インプラントやブリッジによる修復が行われることもあります。


日常的な口腔ケアのポイント

根分岐部病変の予防には、日々の口腔ケアが最も重要です。正しい歯磨き方法を習慣化し、フロスや歯間ブラシを使って歯と歯の間の汚れを取り除きましょう。また、デンタルリンスを使うことで、口腔内の細菌を減らすことができます。

定期的な歯科検診の重要性

定期的な歯科検診を受けることで、早期発見が可能になります。歯科衛生士による専門的なクリーニングやアドバイスを受けることで、予防効果を高めることができます。喫煙を控え、バランスの良い食生活を心がけることも病変のリスクを減らすために効果的です。


根分岐部病変は自然治癒することはありません。根分岐部は構造的に汚れが溜まりやすく、歯周病菌が繁殖しやすい部分です。そのため、放置すると炎症が進行し、歯槽骨の吸収や歯の脱落に至る可能性が高くなります。

早期発見の場合、スケーリングやルートプレーニングといった非外科的治療で進行を抑えることが可能です。しかし、進行した状態では外科的治療や場合によっては抜歯が必要になることがあります。気になる症状があれば、早めに歯科医に相談することをおすすめします。

根分岐部病変の治療費用は、病変の進行度や選択する治療法によって異なります。

  • 初期治療(スケーリング・ルートプレーニング)
    数千円から1万円程度が一般的で、保険適用の場合は比較的安価です。
  • 外科的治療(GTR法やトンネリング手術)
    保険適用外の場合は5万円から15万円程度かかることがあります。特にGTR法やエムドゲインなどの再生療法は高額になる傾向があります。
  • 抜歯やインプラント治療
    抜歯後にインプラントを選択する場合は1本あたり30万円から50万円程度が相場です。

治療内容や保険適用の有無によって費用が大きく変わるため、治療を受ける前に歯科医師に見積もりを確認することが重要です。

根分岐部病変の治療後の歯の寿命は、治療の成功度やその後のケアによって異なります。適切な治療とアフターケアが行われた場合、数年以上にわたって歯を維持することが可能です。

ただし、以下の要因が歯の寿命に影響を与えます:

  • 病変の進行度:重度の病変で治療が行われた場合、予後はやや厳しい傾向があります。
  • 口腔ケアの質:治療後も毎日の適切なブラッシングやフロスの使用、定期的な歯科検診が重要です。
  • 生活習慣:喫煙や不適切な食生活は歯周病の再発リスクを高めます。

治療後の歯を長持ちさせるためには、歯科医師の指導に従い、口腔内の環境を健康に保つことが鍵となります。

当院では、患者様の大切な歯を1本でも延命するため、軽度歯周病から重度歯周病に至るまで様々な対策を行い、歯周病予防をはじめ、早期発見・早期治療で症状の改善・維持を行い、抜歯回避に努めております。

江戸川区篠崎で根分岐部病変の治療をご希望の方は、ぜひ一度当院までお気軽にご相談下さい。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FULASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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