目次

「歯の治療より麻酔の注射が苦手…」そのような患者さんは少なくありません。

しかし現在の歯科では、

  • 表面麻酔
  • 極細針
  • 電動麻酔器
  • シリジェット(針なし麻酔)

などを組み合わせることで、麻酔時の痛みを大幅に軽減できます。

この記事では浸潤麻酔の仕組みから安全性まで分かりやすく解説します。

浸潤麻酔とは、治療する歯の近くの歯ぐきに局所麻酔薬を注射し、その周囲の神経に薬液を浸透させることで、一時的に痛みを感じなくする麻酔方法です。

歯科医院で最も一般的に使用される麻酔であり、虫歯治療や神経の治療、歯周病治療、小外科処置など、多くの診療で行われています。

麻酔薬は神経そのものを傷つけるのではなく、一時的に神経が痛みの情報を脳へ伝えられない状態をつくります。

そのため、

  • 痛みは感じない
  • 意識ははっきりしている
  • 会話もできる

という状態で、安全に治療を受けることができます。

治療が終わると麻酔薬は徐々に代謝され、数時間かけて自然に感覚が戻ってきます。

私たちが痛みを感じるのは、歯や歯ぐきにある神経が刺激を受け、その情報を脳へ送っているためです。

浸潤麻酔では、麻酔薬が神経の周囲まで浸透し、神経の中を流れる電気信号を一時的に遮断します。

つまり、

治療をしている

神経は刺激を受ける

しかし神経の情報が伝わらない

脳が痛みとして認識しない

という仕組みです。

神経そのものを切断したり、傷つけたりするわけではないため、麻酔が切れれば元どおりに感覚が戻ります。

浸潤麻酔は非常に応用範囲の広い麻酔です。

主な使用場面は次のとおりです。

虫歯治療

虫歯を削る際に歯髄(神経)へ刺激が加わる場合に使用します。

神経の治療(根管治療)

神経が炎症を起こしている場合や神経を取り除く処置で使用します。

歯周病治療

歯石を深い部分まで除去するスケーリング・ルートプレーニング(SRP)では麻酔を行うことで痛みを軽減できます。

抜歯

親知らず以外の多くの抜歯では浸潤麻酔のみで十分な鎮痛効果が得られます。

小外科処置

歯ぐきの切開や小帯切除、歯肉形成術などにも使用されます。

インプラント治療

インプラント手術では浸潤麻酔を基本とし、必要に応じて他の麻酔法を組み合わせます。

インプラントの応用例

浸潤麻酔は、インプラント埋入にも活用されます。特に顎の骨に近い部位や粘膜切開を伴う処置において、骨膜や周囲組織に対してしっかりと浸潤させることで、痛みをコントロールできます。

インプラント埋入手術
インプラント埋入手術

歯科で使用される局所麻酔には、大きく分けて2種類あります。

浸潤麻酔

治療する歯の近くへ麻酔薬を注射します。

局所的に麻酔が効くため、

  • 比較的安全
  • 効果の発現が早い
  • 多くの治療に使用できる

という特徴があります。

伝達麻酔

神経の根元に近い場所へ麻酔薬を注射し、広い範囲を麻酔します。

特に下あごの奥歯は骨が厚く、浸潤麻酔だけでは十分な効果が得られないことがあります。

そのような場合には、下顎孔伝達麻酔を併用することで、より確実な鎮痛効果が期待できます。

つまり、

  • 上あごは浸潤麻酔だけで十分なことが多い
  • 下あごの奥歯では伝達麻酔を追加することがある

という違いがあります。

「麻酔そのものが痛い」と思われがちですが、実際には痛みの原因は2つあります。

① 針が歯ぐきに刺さる痛み

歯ぐきには痛みを感じる神経がたくさんあります。

そのため、針が刺さる瞬間にチクッとした刺激を感じます。

② 麻酔液が入る痛み

麻酔液を急激に注入すると歯ぐきが急に膨らみ、圧力による痛みが生じます。

多くの患者さんは、この圧迫感を「麻酔が痛かった」と感じています。

つまり、痛みを軽減するには、

  • 針を刺す痛み
  • 薬液を入れる痛み

この2つを減らすことが重要になります。

「麻酔は痛いもの」と思われがちですが、現在ではさまざまな工夫によって、麻酔時の不快感を大きく軽減できます。

当院でも、患者さんに安心して治療を受けていただけるよう、以下のような取り組みを行っています。

① 表面麻酔を行う

最初に歯ぐきへゼリー状またはスプレータイプの表面麻酔を塗布します。

これにより、針が刺さる瞬間の痛みを和らげることができます。

小さなお子さまや麻酔が苦手な方にも有効です。

② シリジェット(針なし麻酔)を使用

シリジェットは、針を使わず高圧で麻酔液を歯ぐきへ浸透させる装置です。

針を刺す前に使用することで、

  • 針を刺す痛み
  • 恐怖心

の軽減につながります。

麻酔が怖いという患者さんにも好評です。

③ 33Gの極細針を使用

注射針は細いほど痛みが少なくなる傾向があります。

当院では33G(ゲージ)という非常に細い注射針を使用しています。

針が細いことで歯ぐきへの刺激が少なくなり、患者さんが感じる痛みも軽減されます。

④ カートリッジウォーマーで麻酔液を温める

冷たい麻酔液を注入すると、歯ぐきとの温度差によって刺激を感じやすくなります。

そこで麻酔液を体温に近い約37℃まで温めてから使用します。

これにより、注入時の違和感や刺激を抑えることができます。

⑤ 電動麻酔器でゆっくり注入する

麻酔液は一気に入れるほど痛みを感じやすくなります。

電動麻酔器ではコンピューターが一定の速度で薬液を注入するため、圧力による痛みを軽減できます。

ただし、電動麻酔器だけで「無痛」になるわけではありません。

術者が適切な位置に針を入れ、ゆっくりと注入する技術があってこそ、その効果を十分に発揮します。

⑥ 患者さんの緊張を和らげる

実は、不安や緊張が強いと痛みを感じやすくなることが知られています。

そのため当院では、

  • 麻酔を行う前の丁寧な説明
  • 声掛け
  • 患者さんのペースに合わせた治療

を大切にしています。

安心して治療を受けられる環境づくりも、痛みを軽減する重要な要素です。

現在の歯科治療では、安全性が高く効果の安定した局所麻酔薬が使用されています。

代表的なものには、リドカイン、メピバカイン、アーティカインなどがあります。

多くの場合は、血管収縮薬(エピネフリン)が配合されており、麻酔が長持ちしやすくなるだけでなく、治療中の出血を抑える効果も期待できます。

高血圧や心疾患など全身疾患のある方には、問診や服用中のお薬を確認したうえで、患者さんの状態に合わせた麻酔薬を選択します。

浸潤麻酔はどれくらい効くの?

麻酔が効いている時間は、使用する麻酔薬や注射した部位、個人差によって異なります。

一般的には、治療中の痛みを抑える効果は約1~2時間程度、しびれが完全になくなるまでは2~4時間程度が目安です。

一般的な持続時間

内容目安
麻酔が効き始めるまで約2~5分
治療中の鎮痛効果約1~2時間
唇や頬のしびれ約2~4時間

ただし、下あごは骨が硬いため、上あごよりもしびれが長く続くことがあります。

また、年齢や代謝、血流の状態などによっても持続時間には個人差があります。

麻酔が切れるとどうなる?

麻酔が切れると徐々に感覚が戻ってきます。

最初は

  • 唇がムズムズする
  • ピリピリする
  • 少し違和感がある

と感じることがあります。

これは神経の働きが回復している正常な反応です。

治療内容によっては、麻酔が切れたあとに多少の痛みを感じることがあります。

その場合は、歯科医師から処方された痛み止めを適切なタイミングで服用すると、痛みを抑えやすくなります。

麻酔が効かないことはある?

「前に麻酔が効かなかったことがある」という患者さんもいらっしゃいます。

実際には、麻酔がまったく効かないことはほとんどありませんが、効きにくくなることはあります。

① 強い炎症がある

最も多い原因です。

虫歯や歯ぐきの炎症が強いと、その部分が酸性に傾きます。

麻酔薬は中性に近い環境で最も効果を発揮するため、炎症部位では十分な効果が得られないことがあります。

このような場合には、

  • 麻酔を追加する
  • 注射する位置を変える
  • 伝達麻酔を併用する

などの対応を行います。

② 下あごの奥歯

下あごの奥歯は骨が非常に硬く、麻酔薬が浸透しにくい場所です。

そのため浸潤麻酔だけでは十分に効かないことがあります。

この場合には、下顎孔伝達麻酔を併用することで、広い範囲を確実に麻酔できます。

③ 個人差

骨の厚さや神経の位置には個人差があります。

一般的な位置とは異なる場所を神経が走行している場合には、追加の麻酔が必要になることがあります。

④ 強い緊張や恐怖心

人は緊張すると交感神経が活発になります。

その結果、痛みに敏感になり、「麻酔が効いていない」と感じることがあります。

歯科医師は患者さんの様子を見ながら、必要に応じて追加麻酔や休憩を取り入れ、安全に治療を進めます。

浸潤麻酔の副作用は?

局所麻酔は安全性の高い薬ですが、まれに副作用がみられることがあります。

動悸

最も多いのが一時的な動悸です。

これは麻酔薬に含まれる血管収縮薬(エピネフリン)の作用によるもので、多くの場合は数分で落ち着きます。

病気ではありませんので、過度に心配する必要はありません。

手の震え

一時的に手が震えることがあります。

これもエピネフリンの作用によるもので、通常は短時間で改善します。

頭がぼんやりする

緊張や血圧の変化によって、一時的に気分が悪くなることがあります。

多くの場合は安静にすることで改善します。

アレルギー

現在使用されている局所麻酔薬によるアレルギーは非常にまれです。

以前に

  • 麻酔でじんましんが出た
  • 呼吸が苦しくなった

などの経験がある場合には、必ず治療前に歯科医師へ伝えましょう。

麻酔後に気を付けること

麻酔が効いている間は感覚が鈍くなっています。

思わぬケガを防ぐためにも、次の点に注意しましょう。

食事はしびれが取れてから

最も重要なポイントです。

しびれている状態では、

を誤って噛んでしまうことがあります。

特に小さなお子さまでは、自分で唇を噛み続けてしまい、大きく腫れてしまうこともあります。

麻酔が完全に切れてから食事をするようにしましょう。

熱い飲み物に注意

感覚が鈍くなっているため、熱さがわからず火傷をすることがあります。

熱いスープやコーヒーなどは、しびれが取れてから飲むのがおすすめです。

激しい運動は控える

治療当日は、激しい運動や長時間の入浴は控えましょう。

血流が良くなることで、出血や痛みが強くなる場合があります。

飲酒は控える

アルコールは血流を促進するため、治療当日は控えた方が安心です。

特に抜歯や外科処置を受けた日は注意が必要です。

妊娠中でも、必要な歯科治療であれば局所麻酔を使用できます。

歯の痛みや感染を放置することの方が、母体や赤ちゃんへ悪影響を及ぼす可能性があります。

現在使用されている局所麻酔薬は、安全性を十分考慮したうえで使用されています。

ただし、

  • 妊娠週数
  • 体調
  • 治療内容

によって対応が異なるため、妊娠中であることは必ず歯科医師へお伝えください。

授乳中でも大丈夫?

授乳中も局所麻酔は一般的に使用可能です。

局所麻酔薬が母乳へ移行する量は極めて少ないため、多くの場合、授乳を中止する必要はありません。

心配な場合は担当医へ相談しましょう。

もちろん可能です。

実際に、高血圧や糖尿病の患者さんも毎日多く来院されています。

ただし、安全に治療を行うために、

  • 現在服用している薬
  • 血圧
  • 血糖コントロール

などを確認したうえで麻酔薬を選択します。

持病がある方は、治療前の問診で詳しくお知らせください。

お子さまにも浸潤麻酔は安全に使用できます。

ただし、大人よりも注意が必要なのは、麻酔後に唇や頬を噛んでしまうことです。

治療後は保護者の方が様子を見守り、

  • 唇を噛んでいないか
  • 頬を触っていないか

確認してあげてください。

Q. 麻酔は毎回しても体に影響はありませんか?

適切な量を使用する限り、体に蓄積することはありません。

Q. 麻酔が怖い場合は相談できますか?

もちろんです。

痛みに配慮した麻酔方法をご提案しますので、遠慮なくご相談ください。

Q. 麻酔が切れたあとに痛くなりますか?

治療内容によって多少の痛みが出ることがあります。

必要に応じて痛み止めを処方します。

Q. 麻酔を何本も打っても大丈夫ですか?

体重や全身状態を考慮し、安全な最大使用量を守って行いますのでご安心ください。

Q. 過去に麻酔が効かなかったことがあります。

炎症や骨の状態などが原因の場合があります。

追加麻酔や伝達麻酔など、状況に応じた方法で対応いたします。

浸潤麻酔は、歯科治療で最も多く使用される安全性の高い局所麻酔です。適切に使用することで、虫歯治療や歯周病治療、抜歯、インプラントなど幅広い治療を痛みを抑えながら受けることができます。

麻酔の効き方や持続時間には個人差がありますが、炎症の有無や治療部位に応じて追加麻酔や伝達麻酔を組み合わせることで、多くの場合は十分な鎮痛効果が得られます。また、現在の歯科医療では、表面麻酔や極細針、電動麻酔器などを活用し、麻酔時の痛みをできる限り軽減する工夫が行われています。

麻酔に対する不安や疑問がある場合は、一人で悩まずに歯科医師へ相談することが大切です。治療前にしっかりと説明を受け、自分に合った麻酔方法を選択することで、安心して歯科治療を受けられるでしょう。

関連記事

歯科口腔外科
表面麻酔とは?歯科の麻酔注射の痛みをやわらげる方法
表面麻酔とは?歯科の麻酔注射の痛みをやわらげる方法
歯科口腔外科
伝達麻酔(下顎孔伝達麻酔)とは?下の奥歯の麻酔が効きにくい理由・効果・安全性
伝達麻酔(下顎孔伝達麻酔)とは?下の奥歯の麻酔が効きにくい理由・効果・安全性New!!
一般歯科・保険診療
歯医者が怖くて何年も通院できなかった方へ
歯科恐怖症で歯医者に行けない方へ|不安に配慮した歯科治療
親知らず
下の親知らずの方が痛みやすい理由
親知らずの抜歯で「上と下どちらが痛い?」|下の親知らずが痛みやすい理由
マタニティー歯科
マタニティ歯科
歯科口腔外科
高血圧でも歯科治療は受けられる?麻酔・抜歯・服用中のお薬について
高血圧でも歯科治療は受けられる?麻酔・抜歯・服用中のお薬についてNew!!

当院では、「治療中の痛みをできるだけ少なくすること」を大切にしています。

そのために、

  • 表面麻酔
  • シリジェット(針なし麻酔)
  • 33G極細針
  • カートリッジウォーマー
  • 電動麻酔器
  • ゆっくりとした薬液注入
  • 患者さんへの丁寧な説明と声掛け

などを組み合わせ、一人ひとりのお口の状態や不安の程度に合わせた麻酔を行っています。

「歯医者が怖い」「以前、麻酔で嫌な思いをした」という方にも、安心して治療を受けていただけるよう努めています。

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

Follow me!