歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術とは

  • 根管治療で治せない大きな歯根嚢胞は歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術を同時に日帰り手術で行います。
  • 両手術費用は保険適用です。

歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術

 歯根嚢胞摘出後に骨の再生薬が高額!

歯根嚢胞を摘出した後に骨を再生させる薬の使用を歯医者に勧められたのですが、保険適用外で高額であるため悩んでいます。

歯を抜歯すれば歯根嚢胞の摘出は容易です。何故なら、抜歯窩から鋭匙を使って歯根嚢胞を掻き出してしまえば良いわけです。 従って抜歯をすれば歯根嚢胞は治りますが、一本歯を失うことになりますね。

そこで、大きい歯根嚢胞がある歯を抜歯をせずに残す方法に、歯茎を切開して行う歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術などの治療法があります。

歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術の適用症例

上顎前歯(2番)が原因の大きい歯根嚢胞
上顎前歯(2番)が原因の大きい歯根嚢胞

大きい歯根嚢胞や再根管治療不可能

レントゲン写真では、赤矢印で示した上顎2番(側切歯)の歯根先端に母指頭大の黒い影が認められます。かなり大きな歯根嚢胞です。

現在、フィステルが出来て痛みはありませんが、歯根嚢胞が急性化し炎症が拡大すれば当該歯周辺の歯肉全体が盛り上がるように腫れ、激痛が起こる可能性があります。

この歯には人工歯がセットされ、太く長いメタルコア(土台)を歯根を傷付けずに除去するのが難しいと考えられ、根管治療が不可能と判断し、歯根嚢胞摘出手術+歯根端切除術を行ったものです。

手術時間

局所麻酔下での手術時間は約1時間の日帰り手術です。術後の痛みや腫れを防ぐために痛み止めと、抗生物質などの薬を処方します。

予後

手術後の再発は10%以下です。予後不良のケースは歯根自体が虫歯で腐っている場合や歯根に亀裂、破折が起こっている場合などです。

術式

手術の内容は厳密には歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術に分かれますが、手術は両者を同時に行うので深く意識する必要はありません。

歯根嚢胞摘出術
歯根嚢胞摘出術

STEP

歯茎の切開剥離

局所麻酔をかけて歯茎を切開剥離して、歯根嚢胞相当部の骨を露出させます。


STEP

歯根嚢胞摘出

歯根嚢胞相当部の骨を削除し、歯根嚢胞を鋭匙などで完全に摘出します。


STEP

歯根端切除

感染源になっている歯根先端部をダイアモンドバーで切除します。写真はこのステップを写したものです。


STEP

逆根管充填

切断した歯根先端部から再感染を起こさないように、スーパーボンドなどで封鎖する逆根管充填を行います。


STEP

CGF+人工骨

空洞になった骨の部分にCGF+人工骨を入れることもあります。CGF+人工骨を填入すると骨の再生が促進されます。ただし、保険適用外です。


STEP

縫合

歯茎を縫合して手術終了です。


CGF+人工骨の応用例

STEP

歯肉剥離

十分な視野を得る為に、中切歯から犬歯にかけて歯肉を剥離します。

歯肉剥離

STEP

歯根嚢胞の摘出

歯根嚢胞相当分に穴を開け、嚢胞を摘出します。根尖部は切断し、逆根管充填します。

歯根嚢胞の摘出

STEP

CGF+人工骨の混合を填入

歯根嚢胞摘出部にCGFと人工骨を混合したものを填入します。

CGF+人工骨の混合を填入

手術後の注意点

注意

 内出血

手術した歯の近くの頬や唇に赤紫や黄色のあざが出来ることがあります。これは内出血です。1~2週間で自然治癒するので心配ありません。


注意

 しびれ感などの違和感

手術部位周辺の歯茎に麻酔にかかったようなしびれ感や違和感が残ることがありますが、徐々に回復します。


注意

 歯磨き

手術当日の歯磨きは控えて下さい。翌日から歯磨きをしても構いませんが、手術部位には触れないようにして下さい。1週間後に抜糸をします。その後は通常に歯磨きをして問題ありません。


注意

 食事

局所麻酔が切れるのが4~5時間後です。その後食事をしても構いませんが、最初の内は流動食や柔らかいものを食べて下さい。腫れや痛みなどがなければ徐々に普通の食事に戻して下さい。

歯根嚢胞摘出後の治療

術前術後のレントゲン写真

歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術を行った術前術後のレントゲン写真です。

上顎1番を原因歯とする大きな歯根嚢胞

上顎1番が原因の歯根嚢胞


拇指頭大の歯根嚢胞があります。このくらいの大きさになると根管治療では治療しないため歯根端切除術と同時に歯根嚢胞摘出術を行いました。

矢印部分に歯根嚢胞があります。レントゲン的には黒く映ります。

これをX線透過像といいます。

術後のレントゲン写真

術後のレントゲン写真


歯根嚢胞摘出術と歯根端切除術実施後約6か月経過した時のレントゲン写真です。根管内に残った細菌が根尖外に出て再感染するのを防ぐために逆根充を行っています。X線透過像が薄くなり骨ができているのが分かります。

逆根管充填(逆根充)とは歯根端切除術を行った後、根管を封鎖する処置のことを言います。

歯根端切除術を行っているので歯根がわずかに短くなっているのも確認できます。また向かって右側の歯は根管治療を行っています。

歯の神経を抜くと歯は黒く変色

上記レントゲン写真の症例です。上顎1番を原因とする大きな歯根嚢胞は治っても歯は黒く変色してしまいます。

上顎1番と2番の歯が黒く変色

上顎1番と2番の歯が黒く変色


上記レントゲン写真の口腔内写真です。 歯根嚢胞は上顎1番が原因でしたが、向かって右側の2番も歯髄が死んでいるため根管治療が必要となりました。

神経の死んだ歯は写真のように黒く変色します。

オールセラミック

オールセラミック


黒く変色した2本の歯をオールセラミックで治療しました。

審美的に非常に満足できる治療結果となっています。

意図的再植術

歯根膜を可能な限り傷付けないようにして抜歯する必要があるため、大臼歯など複数根の歯や1本の歯根であっても曲がっている場合には不向きです。※ 意図的再植術は保険適用にはなりません。

意図的再植術の流れ

STEP

原因歯の抜歯

歯根嚢胞が出来た歯を一旦抜歯(人工的に完全脱臼させる)します。


STEP

歯根嚢胞の摘出

抜歯窩(抜歯した穴)から鋭匙などの器具を挿入し歯根嚢胞を摘出します。歯を抜歯することで、歯根嚢胞の摘出が容易になります。


STEP

口腔外で歯根端切除術

口腔外で抜歯した歯根の先端部を切除(歯根端切除術)し、切除部をスーパーボンドで封鎖して再植します。


STEP

暫間固定

骨の骨折の時に当て木をする様に再植した歯も両隣の歯に暫間固定します。



STEP

歯冠修復

暫間固定を外しオールセラミックなどで歯冠修復して治療終了です。


大臼歯では手術不可能な場合も

大臼歯では歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術が不可能な場合があります。

上顎大臼歯で手術不可能な症例
上顎大臼歯で手術不可能な症例

上顎大臼歯の舌側根に歯根嚢胞がある

イラストは上顎大臼歯の舌側根に歯根嚢胞がある場合を示しています。上顎大臼歯の歯根は、ほとんどは3根(頬側に2根、 舌側に1根)です。

歯根嚢胞摘出手術は頬側から行うため、このように舌側に出来た歯根嚢胞は摘出できません。

下顎大臼歯の歯根の位置

大臼歯で手術不可能な症例

下顎大臼歯の舌側根に歯根嚢胞がある

下顎大臼歯の歯根の本数は左の写真のように3根の場合がほとんどですが、右写真のように4根の場合は約25%あります。

下顎大臼歯の場合、上顎大臼歯同様に歯根嚢胞摘出手術は頬側から行うため、舌側の歯根嚢胞は骨が邪魔をして摘出できません。

歯根嚢胞摘出手術の費用

保険診療

保険適用です。

項目
保険点数
歯根嚢胞摘出手術歯冠大 800点
拇指頭大 1,350点
鶏卵大 2,040点
歯根端切除術1,350点
※ 歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術は同時に行うので、従たる手術は50%となります。例えば鶏卵大の歯根嚢胞摘出術を行った場合、保険点数は2,040点+歯根端切除術1,350/2点で合計2,715点。従って、3割負担の場合の費用は8,145円となります。
※ 麻酔費用は含まれます。一部負担金は、保険点数の10倍×3円です。

さらに、初診料、再診料、処方箋料、レントゲン撮影料、必要な場合には歯周病の治療、各種指導料、各種検査料などがかかります。

大学病院などに入院期間2泊3日で全身麻酔下での手術費用は、3割負担の一部負担金は8万円ほどになると思われます。 全身麻酔で親知らず4本を同日に一括抜歯する費用を参照して下さい。
※ CGFや人工骨を使った場合には二つの手術共に保険適用にはなりません。

民間保険の手術給付金は?

歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術を受けた場合、保険会社によって手術給付金が出るところと出ないところがあるようです。

10万円以上が出るような会社もあるようなので自分の加入している保険会社に問い合わせてみてください。

当院では歯科口腔外科分野の処置を、適切な検査・診断の元に実施しております。できる限り痛みやリスクを抑えた施術を心がけ、術後のケアまでしっかり実施致します。江戸川区篠崎にて、歯根嚢胞摘出手術と歯根端切除術の歯科口腔外科治療をご希望の方は、ふかさわ歯科クリニック篠崎までお気軽にご相談ください。

【動画】歯茎の出来物、フィステル、口内炎、口腔癌の見分け方

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FULASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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