歯根破折とは

  • 歯根破折とは、歯の根の部分にひびが入ったり、割れてしまった状態を指します。この状態は、歯の健康に大きな影響を及ぼし、放置すると痛みや感染を引き起こすことがあります。
  • 歯根破折は、主に「完全破折」と「不完全破折」に分類されます。完全破折は歯の根が完全に割れてしまう状態で、不完全破折は歯の根に部分的なひびが入っている状態です。これらの分類により、治療の難易度や選択肢が変わってくるため、歯科医師による正確な診断が必要です。
  • 神経の無い差し歯は歯根が割れ易く放置しても自然治癒しません。

神経を抜いてしまった歯は枯れ木の様に脆くなってしまうことはご存知の通りです。差し歯が少しでも痛いと感じたら放置せずに早めに歯医者を受診することをお薦めします。歯根破折の診断が早めにつけば保存出来る可能性があるからです。

ここでは、歯根破折を起こすとどのような初期症状が起こるのか、歯根破折を起こしやすいのはどんな人などかを解説します。

歯根破折が起こる原因

差し歯の歯根に応力集中して起こる歯根破折

歯根破折が起こる原因にはいくつかの要因があります。まず、神経のない歯は弱くなってます。そのような歯に差し歯を装着し、強い力がかかり続けると、歯根破折が起こります。特に単根である前歯や小臼歯の差し歯に頻発します。つまり、過去に行った根管治療などの歯科治療が影響し、歯が脆くなることが原因の一つです。。また、食いしばりや噛み合わせの悪さなどによる過剰な力が歯にかかることで、歯根がひび割れてしまうことがあります。さらに、年齢を重ねることで歯の強度が低下し、歯根が破折しやすくなることも考えられます。これらの要因が重なることで、歯根が破折するリスクが高まります。

上顎第2小臼歯が歯根破折
上顎第2小臼歯が歯根破折

歯根破折した第2小臼歯(神経は無い)は、5番6番7番の延長ブリッジの土台になっています。

第2小臼歯が歯根破折を起こした原因は、延長ブリッジの土台になっていたということだけではなく、 反対側の第一大臼歯、第二大臼歯がともに無いため、ほとんど破折した側で噛んでいたことが負担荷重となり、応力集中が起きたと考えられます。

上顎5番が歯根破折
上顎5番が歯根破折

第一小臼歯が欠損し、3番・4番・5番の3本連結のブリッジの支台となったことで5番に応力が集中し歯根破折を起こしたものと考えられます。

5番は神経が取られメタルコアが装着されています。 メタルコアも歯根破折の一因と考えられます。また、この症例でも反対側の奥歯2本が欠損しているため、ほとんど破折した歯の側で噛んでいました。

外傷による歯根破折

外傷、つまり外から強い力が加わった時に歯根が折れてしまう場合です。外傷による歯根破折は折れた場所によって治療法が異なります。

例えば、歯槽骨の深い部分で折れた場合には抜歯することになりますが、歯茎すれすれのところで折れた場合には根管治療を行い差し歯にすることも可能です。

外傷で上顎2番が歯根破折
外傷で上顎2番が歯根破折

上顎2番が歯根破折したレントゲン画像です。外傷によって 歯槽骨の深い位置で割れているため抜歯以外の選択肢はありません。

外傷で上顎1番が歯根破折
外傷で上顎1番が歯根破折

上顎1番に強い外力が加わることによって歯根が破折したレントゲン写真です。この症例も保存は不可能で抜歯をすることになりました。

差し歯が歯根破折し易い理由

差し歯が歯根破折し易い理由
差し歯が歯根破折し易い理由

Reason

 差し歯の歯根は脆い

神経を取った歯はセラミック冠などを被せるために歯根の中にメタルコアまたはファイバーコアといった土台を差し込みます。

神経の無い歯は栄養が行き渡らずにもろくなっています。枯れ木の様にもろくなった歯の根っこの中に歯根破折のリスクの高い土台(メタルコア)を入れると歯根の一点に応力が集中し、歯根が折れ易くなります。

歯根破折は1根管の前歯に起きやすく、次いで上顎小臼歯の順です。

縦方向にナタで割ったように真っ二つになることがほとんどです。

従って、大臼歯の様に複数の歯根がある歯では、歯根破折の頻度は下がります。

Reason

保険適用の銀合金のメタルコア

差し歯が根元から折れる場合があります。殆どの場合、メタルコアの金属が銀合金(保険適用)で作られている場合です。銀合金は強度が弱く歯根の根元から折れます。治療は折れたメタルコアを外して再製作します。

歯根破折を起こしやすい人

咬合力が強い人

横顔の矢印の部分に注目してください。この角度が90度に近くなればなるほど、咬合力の強い人という事が出来ます。俗に言うエラが張った顔です。

専門用語でいうと、こういった顔のパターンをブレーキーフェイシャル(短顔型)と言います。

ブレーキーフェイシャル
ブレーキーフェイシャル

歯根破折はブレーキーフェイシャルの人に天然歯であっても見られます。

神経のある歯が歯根破折
神経のある歯が歯根破折

通常の生活で歯根破折した症例です。神経のある上顎第二小臼歯に歯根破折が起こっています。ブレーキーフェイシャルの方は筋肉が垂直方向に走っているため、噛み込む力が強い傾向にあります。

歯ぎしり・食いしばり・噛みしめをする人

歯ぎしり
歯ぎしり

歯ぎしりは、夜寝ている時に起こるもので、自覚症状はありません。家族から指摘されて初めて分るものです。歯ぎしりにより強い力が上下の歯に長時間にわたってかかっていることで歯根の耐久性が次第に失われてきます。

朝起きてみると歯茎が腫れ奥歯がグラグラしています。とても痛くて食事が出来る状態ではありません。

これは歯ぎしりによって歯根が縦に割れたところへ細菌が感染したのが原因です。

強い歯ぎしりがある人は就寝時にマウスピース(ナイトガード)を使用することも考慮に入れる必要があります。

歯根破折の初期症状

歯根破折の初期症状を見逃さないことが大切です。噛むときに痛みや違和感を感じる場合、それが歯根破折の兆候であることがあります。また、歯ぐきが腫れたり、膿が出たりすることも歯根破折の典型的な症状です。さらに、歯が揺れるような感覚や、詰め物が突然外れることも、歯根破折が疑われる状況です。これらの症状を早期に発見し、迅速に対処することで、歯の保存が可能になるケースが多いため、定期的なチェックが推奨されます。

STEP

01

当日

歯根破折が起こった瞬間はパッキと音がして「あっ痛い!」程度の症状です。

STEP

02

1日目

1日経つと徐々に歯のグラグラが現れ、ズキズキとした痛みはあまり起こりませんが、噛んだ時の痛みが次第に強くなってきて食事がしにくくなります。

STEP

03

2日目

2日目には歯茎が腫れ動揺も大きくなり食事が出来ないほどの激痛が起こることがあります。

※ 歯根の割れ方によりますが、ここまでの症状の変化は、もう少し長い経過(1週間程度)を辿る場合もあります。

STEP

04

7日目

歯根破折から1週間放置すると、歯茎はさらに腫れて膿が出てドブの様な臭いを自覚する様になります。歯のグラグラが強まり、咬合痛だけではなく自発痛も起こります。

歯根破折すると膿や臭い症状が出る

Reason

 細菌感染

歯周ポケット内の口腔内細菌が歯根のヒビの間に入り増殖します。細菌が作り出す毒素により歯槽骨の炎症が起こり歯茎に膿が溜まり腫れます。炎症反応が起こると当然ですが強い痛みを伴います。

歯周ポケットから膿が徐々に口腔内に漏れ出し、臭いの原因になります。

Reason

 フィステル

割れた歯根先端相当部の歯茎にフィステルという小さな腫れ(でき物)は、膿の出口です。フィステルからの排膿も臭いの原因となります。歯根嚢胞が出来ている時にも作られます。

歯根破折の診断には、いくつかの方法があります。まず、歯科医師による視診と触診が行われ、症状の確認が行われます。次に、X線検査を用いて、歯の内部の状態を詳細に確認します。これにより、ひびの位置や程度をある程度把握することができます。また、特殊な染色法を使用してひび割れを明確に視覚化することもあります。これらの診断手法を組み合わせることで、正確な診断が可能となり、最適な治療法を選択することができます。

ただし、歯根にヒビが入った初期ではレントゲンには写りません。そのため、歯根破折の診断は自覚症状など問診が頼りです。また、詰め物や被せ物を外せばヒビが確認出来ることもあります。

歯根破折の診断

保存治療が可能な場合

歯根破折の状態が比較的軽度であれば、保存治療を行うことが可能です。まず、接着修復治療を行い、ひび割れた部分を接着剤で補修します。また、ファイバーコアを使用して歯の根を補強することにより、歯をできるだけ長く保つことができます。さらに、根管治療とクラウンの装着により、破折した部分を保護しながら機能を回復させることができます。これにより、歯を抜かずに長期間にわたり使い続けることが可能になります。

抜歯

歯根破折が深刻で保存治療が難しい場合、抜歯が必要になることがあります。特に、歯が完全に割れてしまった場合や、感染が広がっている場合には、抜歯が最善の選択となります。抜歯後には、いくつかの選択肢があります。インプラントによる歯の再建、ブリッジ、義歯の装着など、患者のニーズに応じた治療法が提案されます。歯を失った後も、適切な治療を受けることで、日常生活における不便さを最小限に抑えることが可能です。

歯根破折を放置した歯周組織
歯根破折を放置した歯周組織

歯根破折を放置した歯周組織の変化

破折した周囲の歯周組織は細菌感染を起こし、歯槽骨の吸収や歯茎の腫れ、歯周ポケットから膿が出る、臭いが強くなるなどの症状になります。

治療は抜歯一択

歯根破折を起こして放置期間が1週間以上になると歯根を支えてる骨が溶けてきます。こうなると保存治療は不可能で、抜歯の一択になります。

抜歯後は、膿や歯茎の腫れを抑える抗生物質と痛み止めの投与を行います。

抜歯後の補綴治療

抜歯後は、ブリッジ、取り外しの部分入れ歯、インプラントなどの治療法が選択肢になります。

噛み合わせの管理

歯根破折を予防するためには、噛み合わせの管理が非常に重要です。特に、夜間の食いしばりが原因で歯に負荷がかかる場合は、マウスピースの使用が効果的です。マウスピースは歯を保護し、過剰な力が加わるのを防ぎます。また、噛み合わせの不具合がある場合には、歯科医師による咬合調整を行うことで、歯根破折のリスクを低減することが可能です。これらの対策を通じて、歯にかかる負担を軽減し、歯根破折を防ぐことができます。

日常の注意点

日常生活においても、歯根破折を予防するために注意すべき点があります。硬い食べ物を避けることは、歯に余分な負荷をかけないために重要です。また、ストレスによって歯ぎしりをすることが歯根破折の原因になることがありますので、リラクゼーションやストレス管理を心がけることも予防に繋がります。日々のちょっとした注意が、歯の健康を長く保つ助けとなります。

定期的なメンテナンスの重要性

歯根破折を予防するためには、定期的な歯科検診とメンテナンスが不可欠です。定期的に歯科医院でチェックを受けることで、初期の破折や問題を早期に発見し、早めに対処することが可能です。また、予防治療を適切に受けることで、歯の健康を長く保つことができます。歯の問題は早期発見が最も効果的な対策となるため、少なくとも半年に一度は歯科検診を

歯根破折は放置しても自然治癒しません

歯根破折の初めは歯根に小さなひびが入った程度ですが、噛んでいるうちにヒビが大きく広がってきます。そのため、歯根破折した歯は自然治癒しません。歯根破損を放置すると炎症が歯槽骨から顎骨まで及び、場合によっては入院しなければいけなくなります。歯根破折の疑いがあれば速やかに歯医者で治療を受けてください。

歯根が割れた初期であれば割れ方にもよりますが、保存可能な場合もあります。

歯根破折は、歯に強い力がかかり続けることで起こることが多く、治療が難しい場合もあります。神経のない歯や差し歯がある場合、歯の脆さが原因で破折のリスクが高まります。そのため、定期的な歯科検診や、歯への負担を軽減する治療が大切です。食事や噛み合わせの改善、ナイトガードの使用など、日常生活での工夫も予防につながります

歯のトラブルは放置すると悪化する場合がありますので、気になる症状があればお早めにご相談ください。多少のことでも構いませんので、ぜひお気軽にご利用ください。

【動画】差し歯やブリッジが取れた時の応急処置

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FULASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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