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「差し歯が痛む」「噛むと違和感がある」「歯ぐきが腫れて膿が出てきた」──これらの症状、もしかすると“歯根破折”が原因かもしれません。
歯根破折とは、歯の根元にヒビや割れが生じる状態で、早期に発見・対応しないと抜歯に至ることもあります。
本記事では、歯根破折の原因・症状・診断方法・治療法、そして放置した場合のリスクや予防法まで、歯科医の視点からわかりやすく解説します。大切な歯を守るために、ぜひ最後までお読みください。

「歯が割れている」と言われたとき、多くの方が「もう抜くしかない」と思いがちです。しかし近年では、破折の状態や部位によっては歯を残す治療が選べるケースもあります。この記事では、「歯根破折 治療」における最新の選択肢を分かりやすく解説していきます。

🦷 歯根破折とは?

歯根破折(しこんはせつ)とは、歯の根っこ(歯根)にヒビや割れ目が入る状態です。目に見えにくく、レントゲンやCTでの診断が必要となることもあります。主な原因には以下のようなものがあります。

  • 強い噛みしめや歯ぎしり(TCH・ブラキシズム)
  • 金属製の土台(メタルコア)による応力集中
  • 根管治療後の脆くなった歯
  • 高齢による歯質の変化

症状の例:

  • 噛むと痛む
  • 歯茎が腫れる、膿が出る
  • 被せ物がグラつく
  • レントゲンで黒い影がある

🧠 治療方針を決める3つの視点

歯根破折の治療方針は、以下の3つの視点から慎重に判断されます。

  1. 破折の位置
    • 歯冠に近い浅い位置であれば保存可能なことが多く、
    • 歯根の先端(根尖)に近い位置だと抜歯が選ばれやすくなります。
  2. 破折の深さ
    • 歯肉より上(歯冠側)であれば修復可能性あり
    • 歯肉より下(歯根深部)では接着が難しく、感染リスクが高まります
  3. 破折の方向
    • 水平または斜めの破折 → 条件次第で保存治療が可能
    • 垂直方向の破折 → ほとんどが抜歯適応

これらを総合的に評価し、「歯を残せるか/抜歯すべきか」を判断します。
続く章では、それぞれの治療法について具体的に見ていきましょう。

歯根破折と診断されたからといって、必ずしも抜歯が必要とは限りません。条件次第では、歯を残す治療が可能です。ここでは、保存治療が適応となる代表的な条件をわかりやすく解説します。

🔍 抜歯せず保存可能な3つの条件

① 破折の範囲が限定的(歯冠寄り)

破折線が歯の根の浅い位置(歯冠側)にとどまっている場合、歯を抜かずに修復できる可能性があります。破折範囲が狭く、コア(土台)を支えるだけの歯質が残っていれば、接着再植法などの選択肢が検討されます。

② 歯周組織が健全(歯茎・骨の状態が良好)

歯の周囲の骨(歯槽骨)や歯茎に歯周病などの炎症がないことが重要です。破折による感染があっても、周囲の組織がしっかりしていれば、固定や再建治療がうまくいく可能性が高まります。

③ 全身状態が安定している(糖尿病・骨粗しょう症がない)

口腔の治療成績には、全身の健康状態も大きく関わります。糖尿病や骨粗しょう症などがあると、治癒力が落ちるため、再植やインプラントの成功率にも影響します。逆に健康状態が安定していれば、保存治療の成功率は向上します。

📐 破折部の位置・深さ・方向による違い

🦷 根尖部 vs 歯頚部の破折

  • 根尖部(歯の根の先端)での破折は、症状が出にくい反面、処置が難しく抜歯になることが多いです。
  • 一方で、歯頚部(歯茎近く)に近い破折であれば、土台を再建したり、接着再植法で対応できる可能性があります。

🌿 歯肉上 vs 歯肉下の亀裂

  • 歯肉より上の破折(視認できる範囲)であれば、比較的処置がしやすく保存の可能性が高いです。
  • 逆に、歯肉より深く(歯槽骨内)に及ぶ破折では、プラークの侵入や感染リスクが高まり、抜歯が選択されることが多くなります

🧭 水平破折 vs 垂直破折の治療可能性

  • 水平破折や斜めの破折は、接着再建がしやすく、保存治療の適応になることもあります
  • 一方、垂直に深く割れている場合は、ほとんどが抜歯対象となりやすく、他の治療法への移行(インプラントなど)が必要になるケースが多くなります。

「抜歯しかない」と言われた歯でも、条件が合えば保存できる治療法があります。ここでは代表的な2つの方法をご紹介します。

🧪 ① 口腔外接着再植法(自費診療)

口腔外接着再植法とは、一度歯を抜き、口の外で破折部を接着してから、再び元の場所に戻す治療法です。感染リスクを抑え、接着精度を高めるための処置として行われます。

口腔外接着再植法
口腔外接着再植法

🔄 治療の流れ

歯根破折した第二小臼歯
歯根破折した第二小臼歯
  1. 歯を抜歯(歯根膜を傷つけないよう丁寧に)
  2. 破折部を洗浄・乾燥し接着
  3. 差し歯・メタルコアも再接着
  4. 元の位置に再植・縫合・ワイヤー固定
  5. 2〜3か月後に固定を外す

🎯 適応条件

  • 歯根破折から3日以内
  • 歯根に十分な厚みと強度がある
  • 咬合バランスが良好
  • TCH(無意識の噛みしめ)や歯ぎしりがない

これらの条件が揃わない場合は、成功率が下がるため慎重に判断されます。

✅ メリット

  • 自分の歯を残せる可能性がある
  • インプラントやブリッジを回避できる
  • 外科的処置が比較的短期間で完了

⚠ デメリット

  • 保険適用外(自費治療)
  • 成功率には個人差があり、長期予後は不確定
  • 歯根が再び破折するリスクあり

💰 費用の目安

  • 42,900円(税込)
  • 接着費・薬代・レントゲン診断など込み(差し歯やコアの再使用が前提)

✂ ② ヘミセクション(大臼歯限定)

ヘミセクションとは、複数の歯根を持つ大臼歯(主に6番・7番)に適用される治療法です。破折した歯根だけを切除し、残った健全な歯根を残すことで、歯全体の保存を目指します。

🦷 対象となる歯

  • 下顎6番、上顎6番など歯根が複数ある大臼歯
  • 一部の歯根だけが破折している場合に適応

🔧 治療の流れ

  1. 破折した歯根のみを外科的に抜去
  2. 残った歯根に根管治療を実施
  3. 被せ物のブリッジまたは単冠を装着
  4. 必要に応じてインプラント併用も検討

🦷大臼歯の歯根破折症例

下顎6番の近心根が歯根破折
下顎6番の近心根が歯根破折
 下顎6番の近心根が歯根破折

レントゲン写真は、下顎6番の近心根が折れている状態を示しています。大臼歯の歯根は、通常2本から4本で構成されています。大臼歯が歯根破折した場合、問題となっている歯根のみ抜歯し、健康な歯根は保存する「ヘミセクション」を行います。

下顎6番の近心根を抜歯
下顎6番の近心根を抜歯
 ヘミセクション(下顎6番の近心根を抜歯

レントゲン写真は保存できた歯根の根管治療が完了した状態を示しています。その後、5番の金属冠を外しブリッジにすることにした症例です。

また、条件が合えば抜歯した所はインプラントにし、残った歯根は単冠することも考えられます。

💡 メリットと注意点

  • 歯の一部を活かせるため機能と咀嚼力を保持できる
  • 保険適用となる場合もある
  • ただし、残存歯根の状態が悪ければ適応外となる

破折の程度が深く、どうしても歯を残せない場合には、抜歯後の再建が必要になります。中でも注目されているのが、「抜歯即時インプラント」という選択肢です。

🦷 抜歯即時インプラントとは?

抜歯即時インプラントとは、歯を抜いたその日にインプラントを埋入する治療法です。従来のように「抜歯 → 治癒 → インプラント」と段階を分けるのではなく、即日で人工歯根を埋めることで、治療期間を短縮します。

🔄 治療の流れ(症例の一例)

  1. 破折した歯を抜歯
  2. インプラントを即日で埋入
  3. 骨量が不足している場合は骨造成(GBR)を併用
  4. 縫合・仮歯の調整(審美部位の場合)
  5. 約3か月後、骨が安定したら上部構造を装着

STEP

01

上顎2番が歯根破折

歯根破折した部分がはっきりと分かります。このような割れ方では保存は不可能なので抜歯となりました。

上顎2番が歯根破折

STEP

02

抜歯した上顎2番の歯根

もう少し高い位置で破折したら保存可能だったと思われます。また、歯根がもう少し長ければエクストルージョン法の適応になったと思われます。

抜歯した上顎2番の歯根

STEP

03

即日インプラント埋入

抜歯窩に即日インプラントを埋入しました。

即日インプラント埋入

STEP

04

GBRでインプラント周囲の骨造成

十分な骨の量がなかったためにフィクスチャーのネジ部が露出してしまいました。そこで、人工骨とCGFを填入し、 骨の誘導を図ります。

GBRでインプラント周囲の骨造成

STEP

05

縫合

人工骨とCGFが流出しないようにしっかりと縫合します。

縫合

STEP

06

インプラント術後レントゲン写真

インプラント埋入3ヶ月後のレントゲン写真です。骨が十分にできたのでアバットメントを結合した状態です。その後、上部構造の作成に入ります。

インプラント術後レントゲン写真

🌟 メリット

  • 治療期間を大幅に短縮(従来の1/2以下)
  • 歯を失った期間がないため、見た目の不安が少ない
  • 周囲の骨や歯肉の形態を維持しやすい
  • インプラント周囲炎のリスクが低減されるケースも

⚠ 注意点

  • 骨の量や厚み、炎症の有無など、適応症が限られる
  • 精密な診断(CT・咬合評価)が必要

💰 インプラントの費用と期間

🕒 治療にかかる期間の目安

  • 抜歯〜インプラント埋入:当日
  • 骨造成の定着期間:約3〜4か月
  • 上部構造の装着まで:約4〜6か月

※患者さんの骨の状態や全身状態によって異なります。

💵 費用の目安

項目費用(税込)備考
インプラント本体(埋入術)220,000円〜330,000円部位・素材により変動
上部構造(被せ物)110,000円〜165,000円セラミック・ジルコニア等
骨造成(GBR)55,000円〜165,000円必要時のみ

📋 保険適用について

  • インプラント治療は自由診療(保険適用外)
  • ただし、医療費控除の対象になる場合があります
  • 骨粗しょう症や重度糖尿病の方は適応外となることもあります

歯根破折に対しては、「歯を残す」か「抜歯して再建する」かで治療方針が分かれます。以下の表では、それぞれの治療法を費用・保険適用・成功率・対象歯などの視点から比較しました。

治療法保険適用費用目安成功率長期予後対象
🧪 口腔外接着再植約4〜5万円5〜10年(条件次第)小臼歯など
✂ ヘミセクション一部保険可状況により異なる数年〜大臼歯限定
🦷 抜歯即時インプラント30〜50万円前後長期全歯種対応(条件あり)

💡 治療選択のポイント

  • できるだけ自分の歯を残したい方には、「口腔外接着再植法」や「ヘミセクション」が候補となります。
  • 審美性や噛む力の回復を重視する方には、「抜歯即時インプラント」が有力です。
  • それぞれに適応条件や費用、リスクがありますので、歯科医師とよく相談して選択しましょう。

歯根破折の治療に関して、患者さまからよく寄せられる質問にお答えします。

❓ 口腔外接着再植法は何年くらいもちますか?

🦷 回答: 条件が良ければ5〜10年程度の予後が期待できます。
ただし、歯ぎしりや噛み合わせ、歯周組織の状態などによって大きく左右されるため個人差があります。定期的なメンテナンスが長期安定のカギです。

❓ もし再植が失敗した場合はどうなりますか?

🔁 回答: 再植がうまくいかなかった場合でも、インプラントやブリッジなど他の治療法に移行することができます。初期段階で早期に対処することで、次の治療へスムーズに移れるように設計されています。

❓ 保険で対応できる治療はありますか?

💰 回答:

  • **口腔外接着再植法やインプラントは自由診療(保険適用外)**です。
  • ただし、ヘミセクション(大臼歯の部分保存)やブリッジ治療については、保険が適用される場合があります。歯の位置や本数、使用する素材などによって異なるため、事前にご相談ください。

「もう残せません」「抜歯しましょう」と言われたとき、
すぐに諦める必要はありません。

🦷 歯根破折でも、治療できるケースはあります

破折の範囲や部位、周囲の組織の状態によっては、
口腔外接着再植法ヘミセクションといった方法で
歯を保存できる可能性があります。

🔄 保存が難しい場合も選択肢はあります

どうしても抜歯が避けられない場合でも、
抜歯即時インプラントにより、
見た目も機能も早期に回復できる選択肢があります。
「歯がない期間」を最小限に抑えたい方に適した治療法です。

💡 悩んだら、セカンドオピニオンを

納得できる治療を選ぶには、複数の意見を聞くことも大切です。
当院では、歯を残したい方のためのカウンセリングも行っております。

「本当に抜歯が必要?」
「他に方法はないの?」と感じたら、
ぜひ一度ご相談ください。

あなたの歯を1本でも多く守るために、私たちが全力でサポートします。

📍 江戸川区篠崎で「歯根破折の治療」をお考えの方へ

この歯はもうダメかも…」と諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。

江戸川区篠崎にある当院では、できる限り歯を残すことを最優先に考え、次のような治療法をご提案しています。

🛠 歯を残すための保存治療

  • 口腔外接着再植法
     破折した歯を一度抜いて接着し、再び植え戻すことで、歯を温存する選択肢です。
  • ヘミセクション
     大臼歯の一部の歯根だけを抜き、残りを活かして再建します。

これらの治療法は、すべての症例に適応できるわけではありませんが、正確な診断と条件が合えば、抜歯せずに治療を完了できる可能性があります。

🦷 抜歯が避けられない場合もご安心ください

やむを得ず抜歯が必要になった場合でも、即日インプラントによる機能回復や、審美性に配慮した再建法を患者様に合わせてご提案いたします。

📞 ご相談はお気軽に

精密な診断と丁寧なカウンセリングを行い、患者様一人ひとりに合った最善の選択肢をご提案いたします。

江戸川区篠崎周辺で「歯根破折の治療」をお探しの方は、ぜひ当院までご相談ください。

【動画】奥歯を抜歯したまま放置すると?

筆者・院長

篠崎ふかさわ歯科クリニック院長

深沢 一


Hajime FUKASAWA

  • 登山
  • ヨガ

メッセージ

日々進化する歯科医療に対応するため、毎月必ず各種セミナーへの受講を心がけております。

私達は、日々刻々と進歩する医学を、より良い形で患者様に御提供したいと考え、「各種 歯科学会」に所属すると共に、定期的に「院内勉強会」を行う等、常に現状に甘んずる事のないよう精進致しております。 又、医療で一番大切な事は、”心のある診療”と考え、スタッフと共に「患者様の立場に立った診療」を、心がけております。

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